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ばーばと南 + Run&Music

メダカと、カダヤシと、ヌマエビの運命。

南が3年生の時のお話。

 

南とメダカを取りに行く。

目指すはいつもおとーさんと行っている田んぼの用水路。

南の目的はメダカに卵を産ませて育てること。

幅が3mほどの用水路に沿って流れとは反対の方にずっとのぼっていくと、いるいる、メダカが。

 

といっても私にはメダカかどうかは区別がつかない。

南がメダカというからそうなのだろう。

 

小魚を捕るときの網の使い方は上からかぶせるように取るのだと、

南が教えてくれる。

理由は下から救うと水圧で網をあやつれないからだそうだ。

「一瞬の勝負だからね」っていいながら、父親の教えどおりに網をあやつり、歓声とともに次々にメダカをつかまえてバケツに移していく。

 

南の網を操る姿が、時とともにたくましくなっていることが微笑ましくある。

その姿を見たいがためにこうやって時々一緒に魚をとりにきたりもする。

 

「ヤゴは生エサしか食べないんだ」と、こめかみと鼻の下に汗をかきながら、

水草の隙間に網を突っ込んで、数匹の小さな名前も知れないような小魚と数十匹のミナミヌマエビを捕獲する。

 

ミナミヌマエビは水槽で飼うためではない。

うちに2年間も住んで、トンボになるのを忘れているかのようなヤゴ数匹と、

小指のツメほどの赤ちゃんの時に、南の網にかかり、今では20センチほどに成長し、

“ピーちゃん”と名付けられ、自分は鳥だと勘違いしそうなナマズのエサにするためだ。

 

 

「”ピーちゃん”と言う名前にしようと思うんだけど」

自信なさげに南が提案したときに全員一致、無条件で「いーじゃんそれ」って賛成したうちの家族。

ナマズにピーちゃんって、センスがあるのかないのかは置いといて、みんなでナマズの名前を決める時間を持つよき家族でいてくれていることに感謝。

 

 

30分もの間、集中して川の中に網をつっこんでいた南は「大漁だー、大漁」と大満足。

 

 

☆☆☆ メダカじゃないぞ ☆☆☆

 

 

数十匹のメダカをバケツに入れて、大事に家に持って帰り観察していると、外から戻ってきたおとーさんが現れて、絶望的な事実を伝える。

 

「これはカダヤシっていって、よくメダカと間違うんだよ。おなかに黒い点があるのと、よくみるとひれが全然違うだろ」と、図鑑を持ってきて写真を指す。

 

 

南はお父さんの手から図鑑を素早くひったくって

「あー、なんだよ。そして外来種じゃん。頑張って取ったのになーんだ」

と顔をゆがめながらうなだれ、肩を落とす。

 

 

「あなた外来種って言葉を知ってるのね。すごいわよ」

私が感心してみせて気をそらせると。

「あたりまえじゃん。常識だよ」と細い声で反応する。

 

 

☆☆☆ ピーちゃんの餌に ☆☆☆

 

 

南はカダヤシには用がないということなので、数匹をアミですくってピーちゃんのエサとして水槽に入れてみる。

 

買い物から帰ってきたおかーさんも加わり4人で水槽を囲み、じっと観察しているけれどなかなかナマズは動き出さない。

私が「ピーちゃんなかなか食べないわね」と言うと、

南が「大丈夫、狙っているんだよ。動かないで」とたしなめられる。

あまりの動かなさに、おかーさんはお昼の準備にとりかかる。

 

そして数分後にその時は来た。

 

ピーちゃんは久しぶりの生エサにあわてず騒がず、ひっそりとカダヤシの背後に向かうやいなやパクリと飲み込んでしまう。

「おかーさん食べたよ来て来て」と、南は母親を大声で呼ぶ。

 

ピーちゃん丸のみ。

嚙まないのね。

よって、味わうこともしない。

エネルギーの獲得という目的のみ。

シンプルでいい。

エサを目の前にしながら、株のベテラントレーダーのような落ち着きっぷりも、貫禄があっていい。

 

 

 

「食事の時に噛まないのは、南とおとーさんと同じだね」とちゃかすと

「そーかもしれない」と南は素直に認める。

 

 

でも、自然の中にいたカダヤシはどうしてあんなにも無防備なのか。

南が「逃げないね」と不思議がっている。

 

「後ろからだったからじゃない」といってる矢先に、ピーちゃんはすーっと静かに“何にもしないよと”いう空気感でカダヤシの目前に現れて、これまたダイソンの掃除機のように瞬時に吸い込む。

 

 

「何で逃げないのだろう。こんなに危険がわかってなくてどうやって用水路で生き延びることができたんだろう」と南はしきりに首をひねる。

 

 

「用水路には危険がなかったんじゃない」と私が想像してみると、

「いや、そんなはずはないよ。大きな魚もいるはずだよ。フナとか、ナマズだってどじょうだっているよ。うかうかしていると鳥にだって食べられちゃうんだよ。カエルもザリガニも敵だからね」と、用水路の危険度を全力で教えてくれる。

 

そうこうして5分もすると、ピーちゃんは4~5匹のカダヤシを全部平らげてしまったので、また少し足してみようということになる。

バケツをみていた南が大声で叫ぶ。

 

「ばーば、メダカがいるよ。何匹か混ざってるよ」

「それもきっとカダヤシだよ」と言うおとーさん。

 

 

どれどれとみんなでかけつけてみると、本当に黒いメダカが数匹入っている。

 

 

☆☆☆ カダヤシとは正反対の運命 ☆☆☆

 

 

「よかったねー」と喜んで、南はさっそくメダカの水槽づくりを始める。

高さが30cmほどの水槽に赤土に水草を刺した器を沈めて、脇から静かに水を入れていく。

 

「水合わせした方がいいかな」南がおとーさんに確認する。

「いいんじゃない水温が変わらなければ」適当なおとーさん。

 

「あっ、同じくらいだからいいかもしれない」と南。

「水槽を少し太陽にあてておく?」おとーさんが南にたずねる。

「そうだね1時間くらい置いておこう」

 

南は、うちにいる金魚や、カブトムシや、川魚や、カニや、ヤゴや、ザリガニや、ピーちゃんなど、たくさんの生き物を採ってきては、そのお世話をおとーさんと一緒に行いながら、各々の扱い方や育て方を覚えていく。

 

その過程では、図鑑などにはのっていないもしくは正反対の発見がある。

 

★★★

 

ザリガニは共食いするから2匹までと書いてあったにもかかわらず、目線が合わなければいいのではという根拠のない理屈と、分けて飼う水槽がないという理由で、60cmの大ぶりな水槽に、石や水道管の切ったものをたくさん入れて6匹を放ってみた。

すると、なんと3世代もの間飼い続けることができ、最後は13匹まで増えて手に余ったものの自然に返すのは違法なので、魚釣りの餌にして、釣れたオイカワをそのザリガニが入っていた水槽で新たに飼うことにした。

 

男の子にとって、このように違う種類の生命にたくさん触れることができることは、心を育むに至ってとても貴重なことなんだと思う。

 

★★★

 

昼食後、おとーさんは用事で再度出かけて手伝えないので、この後は全て南に任された。

「ばーばも一緒にするんだよ」と、小さなピンク色の折りたたみいすをさっと準備して断れない状況を作る南。

 

まずは、メダカを小さな水槽にバケツから移す作業だ。

「メダカを水槽に移すときは優しくすくって、そーっと放してあげてね」と自慢げ。

 

 

「ばーばすくってみる?」

「ばーばはみてるだけでいいわよ」

 

 

「一度やってみなよ。僕がコツを教えてあげるから」

「どうやるの。メダカは逃げ足が速いわよ」

 

「追ったらだめだよ。網を入れてメダカの下でじっとしているんだよ。そのうち網の上に自分から入ってくるから。そうしたらそーっと網を上げて網の中で泳がせるようにすくうんだよ。じっと待つ感じかな」

 

言われたとおりにやってみると、それはそれはうまくすくえる。

 

金魚すくいも同じだよ」

「そういえば南は金魚すくい上手だったね」

 

「小魚はみんな同じだよ」と南。

男の子にとっての狩猟はたくましさと優しさを育てるようだ。

 

 

☆☆☆ 水合わせ ☆☆☆

 

 

昼食を食べて、日なたに出していた大きな水槽の水もあたたまったころ、

同じように半日陰にしていたメダカを入れた小さな水槽を、そのまま大きな水槽に沈める。

この時に小さな水槽を入れた際に、大きな水槽の水が小さな水槽の方に入っていかないような深さを保つことが大事なようで、南はレンガを沈めてその上に小さな水槽を乗せて、水槽が浮かないようにまた上からレンガをのせる。

 

そんなことができるなんて、想像力が豊かになったわねとほめる。

「そうかなー」と首をひねる南。

 

お互いの水槽の温度を合わせるためには、15分ほどおいて置くといいらしい。

南はその15分が待ち遠しくてしょうがないらしく、水槽から目を離さず、数分おきにまだかまだかと聞いてくる。

 

時間が来たら南は「よしっ!」と言って、小さな水槽をそーっとそーっと斜めにしながら、大きな水槽へメダカを移していく。

無事に大きな水槽に移ったメダカたちは元気に泳ぎだす。

嬉しそうにニコニコして眺めている南。

 

 

彼にとって家で飼う生き物は、すべてが自分で採ってきたものでないとダメなようだ。

その中でも、特に希少なメダカはスペシャルなものだそうで、ずっとみていても飽きないという。

 

外来種カダヤシはピーちゃんに食べられたけど、ちょっとした違いのメダカはこんなに大事にされて大違いなのね」と南に振ると

外来種は駆除対象だからね」と、にべもなく言われた。

 

そう話している横で、ピーちゃんとヤゴの餌にするはずのヌマエビが、バケツから跳ねてとび出した。

南はヤゴの餌のことをすっかり忘れていたようだ。

半分をヤゴ用に、半分はメダカの水槽の掃除屋さんということで、数十匹いるミナミヌマエビを小さな網で仕分けをしだした。

 

ここでの彼らの運命は、南の網のあやつりかた次第。

 

 

南の生命を扱うたくましさと、3種の運命の分かれ道をみた午後であった。