混んでいる3車線の道路で信号につかまります。
私は一番右の車線の一番前で止まりました。
さあ、信号が青に変わろうかという時、
その時です、鳩が3匹、横断歩道をトボトボと渡りだしました。
それも一列にならんで。
えっ、ハトよね?
私は久しぶりに、心中穏やかではない状況に置かれます。
どうして歩いてるの、危ないじゃない。
信号、赤よ赤。
ねー、ねー、飛べばいいじゃん。
なにやってるのよ。
他の2台、見切り発車しないで動かないでね、ハトを踏まないでね。
はやく、飛んじゃいなさいって。
幸いなことに、私を含めた3車線の前列3台はびくとも動きません。
クラクションも鳴らさずに、じっと動かずハトの横断を待っています。
みんな偉いわ。
感心しつつも、後ろに並んだ車のドライバーの心情を察するに、難くありません。
前の3台は揃って何やってんだ、とイライラしているはずです。
それでも3台とも動かないという異常事態を察知してか、すぐにはクラクションはなりません。
ハトを待つ最前列の3台。
青信号を前に、全く動こうともしない3台にイラつく後続車輛。
いずれにしても、通常のうかれた土曜日の交差点ではありません。
しかし、ついにその時はきました。
数台のクラクションが鳴りだしたのです。
当たり前です。
鳴らして当然だと思います。
キリンが横断してるのなら、後続の車からも視認できて、
「あー、キリンが渡ってるからしょうがねーなー、あいつら信号判らないしね」
と納得しますが、まさかハトが3匹横断歩道を渡っているだなんて、だーれも想像できません。
私にとっても史上初の出来事です。
鳥の横断を待つのは、沖縄の山中を運転中に、ヤンバルクイナが道路を渡るのを待って以来だし、でもそこは山中だったでしょ、ここは都会の真ん中の横断歩道よ。ヤンバルクイナは飛べない分、走って渡ったし、あなたたちは飛べるでしょ。飛ばないまでも少しは急いだらどうなのよ。なに考えてんの、ホントに都会育ちのハトなの?、車見えないの?、瞬時において様々な思いが脳内を駆け巡ります。
それに反応したのが真ん中のドライバー。
スキンヘッドにサングラスをかけた、大きな男の人が運転席のドアを開けて出てきて、後ろの車に
「じゃかましー、ハトさんが横断歩道をわたっとんじゃ」
と一喝。
今日は少し暖かくて、エアコンでは車内温度が調整しづらい気候だったので、多くの車が窓を少し開けて走っていました。
私も同様に、前の両座席の窓をほんの少し開けていたのでその声は筒抜けです。
彼は私に「ですよねー」と微笑みかけて車に乗り込みました。
私はひきつったままの笑顔で返します。
迫力満点。
人は見かけによったのか、よらないのか、もうわからなくなっています。
でも、こんな強面なのに黙ってハトを待ってくれていたこと、
加えてハトさんて言うんだって。
本性を見たような気がします。
恐いけど、優しい。
そして、かわいい。
きっと弱者には優しいのでしょう、ということにしておきます。
冬日和の交差点において、心拍数が一定なのは「ハトさん」だけでした。