歯医者さんで、支払いを待っている。
先客は、きれいな格好をしたおばちゃん。
支払が終わり、受付の歯科助手のお姉さんに2時間は食事を控えるよう言い渡されている。
笑劇の会話はここから始まる。
「飲み物はいいんですよね」
「はい、飲み物は大丈夫です」
「あのー、カレーは飲みものっていいますでしょ」
「そういう人もいますね」
「ですから、カレーは大丈夫でしょうか?」
「え?」
ソファに座って順番を待っていた私は吹き出しそうになる。
「飲み物はいいとおっしゃったでしょ。もちろんカレーはいいんですよね」
「カレーは飲み物ではないのでダメですよ。お昼は食べられたんですよね?」
「はい食べました。ほら、私ってダイエット中でしょ」
「はあ、そうなんですか」
知らんし。
「だから、おかゆと味噌汁と昨日の残りの煮つけにしようと思っていたの。そうしたら隣のかたがゴーヤの天ぷらを持って来てくれたでしょ。お話してたらおなかがすいたのよ」
「そうなんですね。で、お昼は食べられたんですね」
笑顔のお姉さんは話がズレて行くのを嫌がらずに相手をしている。えらい。
「そうなの、天ぷらがおいしかったもので、ごはんもおかわりしちゃって。私って食べすぎよね」
「食欲があるのはいいことだと思います。そういうことならカレーは飲み物でも食べてはいけませんね」
食べたか、食べていないかの答えしかないのに、
なぜ、ここで昼ごはんの詳細が出てくるんだろう。
でも、こういうことは日常でよくある。
会社の中、会議中でのやりとりにも多くみられる。
それは、話をはぐらかす日本の政治家のせいなのだろうか。
となると、国会などは大人だけでなく、子どもに見せてはいけないTVのトップになる。
ほらね、こうやって話はズレて行くのです。
おばちゃんよりも歳の多い私は大いに気を付けなければならない。
いや、齢のせいばかりなのだろうか。
そんなことはないはず、そこは個人差があって若くてもできない人はできないし。
ほらね、またズレたでしょ。
今、襟を正して話を戻さなければ、このブログはPART2が必要になる。
☆ ☆ ☆
私は右手で口をおさえ、笑いをこらえる。
なぜに、2時間がガマンできない。
映画1本みてればすぐだし、今は14時。
食べ物に執着する理由はない。
「カレーはいいと思ったんですけどねー、残念です。ありがとうございました」
と言って帰ろうとするや否や、何かを思い出したように、うなづきながら左の手の平に右手のこぶしをぶつけるおばちゃん。
何か決定的なことををつかんだようだ。
踵を返したおばちゃんに悪い予感を察知し、あとずさる受付のお姉さん。
「あのぉ、今思い出したんですけどね、ぜんざいは私の中では飲み物なので…………」
「あー、ぜんざいもダメですね。噛んだらダメなんですよ。わかりますか。その前に食べすぎと思うのであれば、ぜんざいもやめときましょうか。ダイエット中だし」
「大丈夫です。土日がチートデイだったんで、今日まで伸ばそうと思いました。3日くらいOKですよね」
「それはちょっとわかりませんけど、7日のうちに3日がチートデイとなると、残り4日では取り戻せないんじゃないですかね」
すでに話はダイエットの方法論にすり替わっている。
私はもう笑いをこらえきれない。
「笑ピタン」が必要だ。
売れない若手芸人はおばちゃんの弟子になるといい。
おばちゃんもそこまですがるのであれば、許可を得ようとせずに、もうなんでも好きにしたらいいのに。
もしや、カレーの件はおばちゃんの作戦でブラフだったのかもしれない。
彼女のターゲットは最初から「ぜんざい」だったのではないだろうか。
おばちゃんの仕掛けは巧妙だ。
おばちゃん、この調子ならば「ダメ」と言っても絶対に家でぜんざいを食べると思う。
犯人とわかったキーワードは「今思い出したんですけどね」だ。
コナン君が乗り移ったような私の推理に間違いはない。
とにもかくにも、創造性豊かなおばちゃんのおかげでとても楽しい時間を過ごせた。
これで、おばちゃんのチートデイ分(3日間)くらいは幸せで過ごせる。