造花はなぜすぐに造花とバレるのか?
南のひるむような質問だ。
聞こえないふりをするには遅かりし。
死んだふりは本当と思われて救急車を呼ばれても困る。
「えーっと、作り方がヘタだから」
ヘタに答えてしまう私。
「ぶーっ、造花は花に似せようとする欲があり
それが偽物であることを際立たせるんだよ」
すごい。
中2にもなると哲学的なことを言うようになったんだと、
大道芸人でも見たかのように感心する。
「学校で良寛さんの詩集に、
”花無心にして蝶を招く”とあって、そこでそんな話になったんだよ」
と教えてくれた。
「あなたの言葉じゃないのね。少し安心したかも」
と言うと
「オレの意見だよ。何言ってんの」
と軽く不満そう。
そうなんだ。
そういうことを考えるようになったんだ。
成長を頼もしく思うけど少し寂しくもある。
「生花は無心で欲がない。無心ってなんだろう。
人間に本当に無心なんてできるものなのか、みたいな話にもなったよ」
と南が言う。
「高尚な授業をやってるのね、ばーば”無心”だったら得意よ」
と言って続ける。
「無心とは何も考えない事ではなくて、自分をいかに捨てきるかにかかっているの。
人の評判や、周囲の信頼や、社会的な立場に惑わされず、傲慢にならないず、ばーばやおとーさんの言うことを素直に聞くことかな」
私は得意満面。
「おー、上手い具合に誘導したね」
「ばれましたか。あなたそれについて何か言ったの?」
「うん。それは先生とクラス中でほめられた」
「へーすごいじゃん。なに?なに?、なんて言ったの」
エサを前にした犬のようにぴょんぴょん跳ねて食いつかんばかりの私。
「ああ、忘れた」
無頓着すぎる答え。
お正月はみんな仕事で家族で一緒に過ごせない
と言われたショックに似ている。
「なにそれ、ほめられたんでしょ。思い出しなさいよ」
「いや、すっかり忘れたんだよ」
期待は木っ端みじん。
期待という炭酸が心から抜けていく。
「ふつー、忘れないでしょ」
「まあ、そんなこといいじゃん。そのうち思い出すよ」
「えー、どうして窓を全開にして空気を入れ替えたみたいに覚えていないのかなー」
「思いついただけだったからね」
「もう、鰯みたいに鮮度が飛んで行くのね」
「思春期だからね」
「思春期関係ないでしょ」
「思春期は一瞬の気の迷いでたまたましゃべったことが当たったりするんだよ」
そうなんだ。
知らなかった。
南は私の知らないところで確実に進化している。
桜は毎年ピンク色の花を咲かすけど、
今の南は日々カメレオンのように色が変わる。
いったいどの色に落ち着くのだろう。
南の発言は興味津々だけれど、不承不承これ以上の追及はあきらめる。
コンビニの棚にある売れ行きの悪い商品を撤去するかのように、
褒められたことを忘れるくらいでちょうどいいのかなと思い直し、
私も無心になる。