南が小5のときの帰宅時の玄関での会話より。
「洋一の親が将来は医者になれってしつこく押しつけるから
それに怒って夜の7時に家を出て6時間後にサッカー場の横のアスレチックの上で寝ているところを警察に捕まって戻ってきたらしいよ。
挫折って家出をした人がもどってくることなんだね」
我が意を得て得意満面の笑顔の南なのです。
「うーん、ちがいます。でも洋一君っちはお医者さんだったっけ?」
「いや、うどん屋さんだよ。医者になりたかったけど無理だったんだって」
「それが挫折を経験したことなのよ。
でも挫折を経験したからこそ、おいしいうどん屋さんで今は成功してるんじゃないの?」
「いやー、でも挫折は経験したくないな」と南は顔をしかめます。
そうよ、私も挫折はいや。絶対いや。挫折にからめとられるのはコリゴリ。
だけど、そうだけど、
そんな気持ちを隠しつつ、ばーばの威厳をたたえつつ
「挫折は神さまがあなたはそっちじゃないよって教えてくれてるのよ」
と、とっさに思いついた言葉をいかにも風に話してみる。
「そうなの?」
神さまの力は偉大で、南は目がこぼれそうになって驚いています。
「だったら、その前に教えてくれればよくない?」
「神さまは最初から何らかのサインで教えてくれているのだけど、その時はみんな気づかないのよ。それだから、しょうがないな最終兵器の挫折モードで行くかって決まるの」
「それはわかる気がするけど、やってみなきゃわからないじゃんって」
「やってみてわかったらそれは経験というエネルギーになるのよ。すーっと成功してもエネルギー不足だからすぐに落ちて行っちゃうわよ。だからある程度まで神さまはほおっておくの」
「そうか、エネルギーは欲しいけど、どうやったら挫折しなくてすむかな」
南は挫折を特別に嫌がります。
どうやったら予防注射をしなくていいかなレベルでの思考だと思います。
「神さまの頬っぺたをつねってどうなん?って聞いてみたら」
「それはいくらなんでもだめだろ」
「挫折は風邪をひくみたいに誰にも必ずくるから、だからといってワクチンはないのよ。だからいつもニコニコして笑っていることね。それが本を読み飛ばすように、挫折を跳ね飛ばすしてくれると思うわ」
「人間ってなんかそういうとこがダメだよね。カエルやメダカはニコニコしないけど、挫折はなさそうだし」
「そうね人間は未来を気にし過ぎて、大事な今をうつらうつら生きているからダメなのよ。カエルやメダカは未来を気にせず成るものとして思っているから、今だけに生きているのよ」
南はランドセルをおろしながら
「今を楽しめないのはつまらんな。腹減った何か作って」
と言って、今にしか生きていない、いつもの南に戻りました。
「ランドセルを置きっぱなしにしないで、部屋にもっていってよ。あとでおかーさんに叱られるわよ」
私は未来が見えるので、南の今をすこしだけ抑制します。