大みそかにユウちゃんは家出をした。
宝物が
探し物が
欲しいものが
必ず手に入ると言われる
だからがんばれと言われる
ほんとうのタカラモノや
ほんとうのサガシモノや
ほんとうのホシイモノは
大人のエラい人がみんな隠してしまったので
あなたが差し出してるのはあなたにとっての宝物で
ぼくとは関係なくて
ほんとうの宝物や
ほんとうに探している物や
ほんとうに欲しいものは
ありません
ほんとうがないので
ほんとうがわからないので
がんばれませんの
がんばる気もでませんの
ほんとうを隠されてしまったから
18時に家を飛び出して、7km先の野球場横のアスレチック・ジムに2時間かかってたどり着き、その中で元旦の朝3時まで丸くなって眠った。
あまりの寒さに、首をすくめ両手をポケットに突っ込んで家にもどっているところを巡回中のパトカーに補導された。
ユウちゃんはかたくなに身元を明かさなかったが、
日が昇る頃に中学校名だけを少し仲良くなった交番の警察官に教えた。
正月の中学校の校長室は暖房もついてなかったが、校長先生と担任の先生たちからお説教されているときだったので寒いとは言いだせずに、「何もわかってないくせに」と心で毒つきながらただただうなずいていた。
学校へ迎えに来た両親が、中1の思春期によくある衝動で出て行っただけですぐ帰ってくるものと楽観視しており、捜索願いすらだしてなかったことを知ったユウちゃんは、自分の生活力の未熟さを恨んだ。
帰る車の中で、またイチからやり直しなさい。
お医者さんになるためには、そこから逃げていてはダメよ。
まーこれも経験かもね。
とノーテンキに両親から言われた。
ユウちゃんは今年もらったお年玉はゲームに使わず、
次の家出のための貯金に回すのだと少し計画的になり、
例年以上に親戚の家を回ったそうだ。
オレも今度のことで成長しただろというユウちゃんに
同級生は家出はしてもいいけど学校にはこいよと無責任に口をそろえた。