私たちは情報が増えると、その分心配事が増えたりします。
知識をひけらかして偉ぶって見たりします。
人に会うほどに怒ったり、嫉妬したりもします。
子どもたちも同じです。
学年が進むにつれて自我が形成されていき、それは煩雑に起こります。
孫たちもそうでした。
原因が友だち同士にある場合は単純なのですが、
ヘタに親が絡むと複雑化します。
☆ ☆ ☆
南が5年生の時のこと。
公園では低学年から高学年までそれぞれが数人で固まって遊んでいる。
公園の真ん中では5年生の男女8人がドッジボールをしていた。
ボールが当たったか否かでもめているよくある光景が、この後普通ではない事態に展開する。
「当たっていない」と言い張るミナト君は憤慨して家に帰ってしまう。
彼とドッジボールをすると常にトラブルが発生するので、途中から入ってくるのはしょうがないが、南たちはなるべくその遊びのグループには入らないようにして、リスクから距離を取っているようだ。
その日、南たちは数人でドッジボールを見ながら公園の隅で談笑していた。
ミナト君は自分の思い通りにならないと、ルールに従わずグループを離れる行動はいつものこと。
女子の前ではかっこつけたがるのも常。
今回は「ぼくが守ってあげるからね!!」と、右目でウインクをして女の子の前に立ち、両手を広げる。
「げーっ、ウインクしてる。気持ちわる」低学年の男子が口々に叫ぶ。
「なんの影響なのかな」と南たちは植物のように静かにあきれる。
女の子は「いいからどいてよ!!」とイライラしながら手で払いのけようとするも
ミナト君は「いいから、いいから」と譲ろうとはせずにもみ合いになる。
そのやり取りに業を煮やした一人が、ミナト君目がけボールを投げる。
ボールは、よけるミナト君をかすり、後ろの女子を襲う。
突然よけられた女子は反応する間もなくボールは頭にまともに当る。
泣き出す女の子。
「ミナトー、そもそもお前、守ってやると言いながらなんだそれは」とボールを投げた男子は収まりがつかない。
ミナト君は自分ではなく、守ってあげてたはずの女子に当たったと言い張る。
1対7の言い合いにミナト君は納得いかずにふてくされる。
☆ ☆ ☆
運の悪いことにその日は日曜日だった。
数分後にミナト君は両親を連れて意気揚々と公園に戻ってくる。
「おらー、親を連れてきたぞ。オレをイジメたやつはでてこい!!」と中指をたてながら強気な表情。
「お前たちか。ミナトをよってたかってイジメたのは」普段は銀行で笑顔を振りまいているミナトパパも今日は強気だ。
首をかしげて手の平をカラダの前で夏空に向け、お手あげ感満載のポーズの南たち。
公園にいた低学年の子どもたちは、事態が飲み込めずに立ちすくんでいる。
ドッジボールは中断し、7人は元銀行員のミナトママに正座を命じられる。
お父さんは「一人づつ、正座したまま謝れ」と凄む。
「銀行員って休日はヤクザになるんだね」
「そうなの?」
低学年の会話は普遍的ではないが、的を得ている。
南たちに気づいたミナト君ママが振り向きざまに
「あなたたちは、なぜイジメを見ながら黙っているの」と詰め寄ってくる。
「エイリアンが人間に気づいた瞬間みたいだったよ」と南。
南たちは「彼らはミナト君のことをイジメてませんよ。ただ遊んでいただけです」と堂々と言い返す。
「あれがイジメでなくてなんなんですか。かばうのなら学校にいいますよ」とミナトママはヒステリックに大声で叫ぶ。
あきれた南たちは
「どうぞ。好きにしてください」と関わり合いを拒む。
「あなたたち、ちょっと待ちなさい!!」
呼び止めるミナトママを置き去りにして南たちは帰ってきたそうだ。
☆ ☆ ☆
帰りしなに学年で一番頭のいいアラキ君が
「オレもあいつと同じ細胞でできていると思うと気持ち悪いよな」
とわかったようなわからないような比喩をしたので、南は
「今、細胞って思いつくお前はすごいけど、キノコもお前と一緒の細胞だぜ」と感心しながら返す。
「えー、そうだったかー。オレはキノコと同じかー」とアラキ君が頭を抱える。
「いや、おれたちみんなそうだ」と南。
冷静なユウちゃんが
「お前たちとキノコの関係より、親を連れてきたミナトと言われて出てくる親が問題だろ。それも2人して。オレたちも学校にチクられるぜ」
と話を戻した。
「別にいいじゃん。その時はそのときで」と南。
☆ ☆ ☆
ミナトパパとミナトママは予定通り翌日、2人で学校へ。
想定外だったのが、正座させられた子どもたちのうち、2人の男子のお父さんも別々で校長室へ勢いよく乗り込む。
ドッジボール選手7人と南たち観客5人は事情徴収。
とはいうものの「おおよそミナト君の普段の素行から想像できるけれど」
という前置き付き。
5年生12人と低学年の子どたちの意見が一致し、次の週にミナトパパとミナトママは学校に呼ばれて厳重に注意を受ける。
もちろんミナト君は担任から普段のことも過去のこともまとめて長いお説教。
今回の件で、ミナト君は家では嘘ばかりついていることが判明。
南たちは「そんなことだろうね」とこれは想定内。
「親がおとなしくなったとしても、あいつはなーんにもかわらないよね」というのが5年生を代表する意見。
・そもそもリレー決めにもでれないのに、〇〇君がしつこく言うから運動会のリレー選手を当日に代わってやっただの。
・サッカー部はこれからみんなキャプテンのつもりで頑張りなさいと言われたのを、キャプテンの推薦が全員一致でオレになったて、いやだったけどみんながお願いって言うから引き受けただの。
・学校の帰りに南を通行量の多い通りに押し出した言い訳が、南が転ぼうとしたから助けようとしただの。
・みんなオレの友だちや彼氏になりたがっているから、身が持たなくて今順番待ちにしているだの。
こんな底の浅いウソを親は疑いもなく信じていたようで、こんなに優しいミナトがイジメられるなんて納得いかないとの抗議だった。
☆ ☆ ☆
両親から常に集団のリーダであることに加え、学業とスポーツともにトップクラスいや、トップオブトップであることを求められてきたミナト君。
それとは真逆な学校でのポジションや生活態度。
嘘でも言わないと家庭での居場所がなかったのでしょう。
彼の両親が設定した窮屈で無理めな目標が、歪んだ形となって彼の心を蝕んだようです。
中学校にあがるときまでに修正しないと、本当のイジメにあう可能性が高いと、先生方は口々に心配されていました。
こんなことで先生たちの自由な時間は削られていくのでしょう。
学校側は自分たちで解決してくださいとはいかないようですね。