「今日ね、リュウマの話なんだけど、心が乱れたので給食当番を降りますって叫んだあと、つかつかって席に戻って給食を食べ始めたんだよ」
と、南が夕飯のみんなのおかずを運びながら話しを始めた。
南の長く安定しない説明を簡素にまとめるとこうだ。
・リュウマ君の低学年の頃は、みんなよりも少し勉強の発育が遅かったり、落ち着きが
なく一緒に長く遊べなかったりもした。
・学年が進むにつれて、発育がみんなに追いついてきて、今はみんなと楽しく遊んだ
り、テストもいい点数をとれたりするようになってきた。
・そんな、リュウマ君にクラスの男子は、「できるようにったね」とほめたり、「すご
いねリュウマ」と声をかけたりしながら過ごしている。
・5年生までは、相手の出かたによってはときどき切れて、教室を飛び出してトイレに
こもったりしていたけど、今はその場でみんなで落ち着かせると笑顔になって普通に
話せるようになった。
☆☆☆
そして、事件は起こる。
ひとりの女の子が、リュウマ君に「おかずを早くつげ」と命令したことから、二人の間でトラブルになっていったようだ。
その女の子は、いつも男言葉で自分の我を通し、大声で人の悪口やあげ足をとったりしたり、ふだんから自分の意見を曲げようとしないので、男子からはとても嫌われていて、南も良くは言わない。
女子もあまり近寄らない孤独な存在のようだ。
6年生の女子の中では群を抜いておきなカラダで迫力のあるその子は、そんな周囲の様子に意に介さず、自分のペースを貫く。
南は、「アイツは孤独ではなく、孤高の存在だと思っているところに問題があるんだよね」と首をかしげる。
6年生にもなるといろんな表現を覚えていくのねと、南の言い回しに家族みんなで感心しきり。
そしてリュウマ君。
「人は怒ったり、迷ったり、不安になったり、偉そうにしたりするものだけど、お前はいつもそうやって心が乱れているじゃないか。そおのかげで僕の心も乱れた。よって、給食当番を降ります。なぜなら、そんな心でみんなに給食をついでもおいしくないからです!!」
「それは、リュウマ君が正しいかもしれないね」とおとーさん。
「その女の子は常に愚かなんだよ。いつも相手をいい負かそうとする。そして私はあなたのためを思って言ってるのよというのが得意。自分のためだろって男子は怒ってる」
と南。
「誰の言うことにも文句言うの?」
とおかーーさん。
「そうだよ。自分がお山の大将で、みんなを従わせていないと機嫌が悪い」
おかずを口にたくさん入れながら南が答える。
「偽善者なんだ」とおとーさん。
「なにそれ」3杯目のご飯のおかわりをつぎに行きながら、南がキッチンの向こうからたずねる。
「本音を隠して、いい事ばかり並べて人をだますヤツだよ」
「あー、それならちがうよ。だってアイツ、リュウマにあなたのつぎかたは遅くてイライラするの。私が待ってるのが見えないのって言ったんだよ。それって本音でしょ」
「あら、いつも本音を言いすぎてぶつかるのね」と私。
「本音っていうか、文句と揚げ足取りばかり。だからみんなとぶつかる。うるさいんだよだまれっていうと、お前もなって、かなっっっっらず言い返してくるからほんとにウザい」
と南が顔をゆがめる。
「コントロールしようとするからよ。ほおってけばいいのに」
おかーさんがアドバイスをする。
「イヤ、ムリ無理。一日そばにいたらわかるよ」
南の言い分もそうかもしれません。
まだまだ6年生。そんな余裕はないようです。
降りかかる火の粉の大元を絶たないと気がすまないようで。
でも相手も大物なので、男子の中ではその子を扱いかねてグチで終わっているのが悔しい様子です。
その気持ちってよくわかります。
だって、怒りが届かないって悶々とするものですから。
☆☆☆
男子たち数人が「リュウマよく言ったぞ」といって肩を叩いたり、頭をなでたりしている中、黙々と給食を食べまくるリュウマ君。
教室がざわついている中で、普段はとてもおとなしいハルト君が突然言いました。
「クラスのみんなは、弱い僕でも認めてくれているから学校に来ようと思うけど、お前はそんな大事なみんなを認めないから嫌だ。お前がいつもいつもクラスを乱している。リュウマだけじゃない、僕の心も乱した。ちゃんとやれ!!」
はじめて彼の意見らしい意見を聞いたと南が驚いたようです。
休み時間は1人で得意の絵を書いて過ごすことが多く、遊ぶ時も自分の意見をいうことのないハルト君。
体育が苦手なハルト君がみんなの遊びの輪に入りたいときは、こっそりだれかに頼むそうです。
そうやってみんなと静かにコミュニケーションをとるハルト君が、初めて強く自分の主張をしたことに男子も女子も感激の拍手喝采。
孤高の女子は「はあ?」とハルト君をにらんで、両肘をつきながら給食を食べだしたらしい。
南は睨まれたハルト君と目が合ったらしく、
がんばってよく言えたね、すごいねハルト君とほめながら孤高の女子に対して、お前がリュウマのおかずのつぎかたにイライラして悪態ついたから言うけど、オレもお前がヒジをついて食べる姿勢にはいつもイラついているからすぐに改めろ、と怒りたいけど、お前が何しようとオレには関係ないから勝手にしてろ、みたいなことを静かに冷たく言い放ったそうです。
大人の世界から見たらもう少し、お互いで言い方を考えたらみたいな意見もないではないけれど、このような”いさかい事”があっての先に年齢を重ねていってのソフトランディングがあるのでしょうから、南の態度も含めてこれはこれでよかったのではと思います。
南には、いきなり150㎞を投げるピッチャーはいないのだから、トラブった場合のモノの言いかたとか対処の仕方は徐々に覚えていけばいいんじゃないと、みんなで話しました。
ただ、男子の態度はどれもみんな素敵だと思うよとも。