歯の定期健診行きました。
院長先生に治療してもらっていると、隣のブースに女性の患者さんが入りました。
歯科助手の女性が「今日はどうなされましたか?」と尋ねます。
その女性は質問には答えず、歯の詰め物が抜けるまでの過程を延々と大きな声で話だしました。
声からすると私と同じくらいか(おっとあぶない年齢を書くところでした)私よりも年下のおばちゃんのようです。
その内容はあますところなく、こちらまで筒抜けです。
おおよそ覚えている内容を記すとこのようになります。
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昨日は、雨がひどかったでしょ。だから、買い物に行くはずだったけどやめて隣のお友達の家に行ったのよ。
そうしたらね、他のお友達も来ていてね、たくさんお菓子をいただいてね。
そうそう、私は洋菓子よりも和菓子派なの。あなたはどちら派?。あら、洋菓子なのね。若いからそうよね。私もねあなたくらいの時があったのよ。
中 略
その中にはね、お餅みたいな中にあんこみたいなものが入っているのがあってね。そうそう、そうなの、割ってみたのよ。でも、それはあまりおいしそうでなかったから食べるのをやめたの。
それで、ちがうのを頂だこうとしたら、えっ?、それはお友達に上げたのよ。
そうよ、割ったけど食べてないからもったいないでしょ。
そういうことはいいのよ、あら、お話がずれちゃったわね。
なんでしたっけ、そうそうミルキーが籠の中にあったのよ。あなたミルキー知ってる? 知ってるでしょ、メーカーはどこだったかしらね。
ほらペコちゃんの所のお菓子よ。慶應じゃなくてなんだっけ、そうよそうそう、明治よ、明治。慶應だなんていやねー、冗談よ。知らないわけないでしょ、あなたが知ってるかなと思って冗談で言ったのよ。
それで、そのミルキーをたべたら詰め物がとれちゃってね。昨日は雨がひどかったでしょ。だから、今日まで待ってたのよ。
詰め物をティッシュに包んで持っていたら娘がね、ジプロックに入れてくれたのよ。
でもね、それはすっかり忘れちゃったの。最近忘れ物がひどくてね……。
後 略
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隣のブースで話を聞いている歯科助手の女性は、声からするととても若いようです。
いつ終わるとも知れないおばちゃんの話を嫌がらずに、真面目に聞いています。
「そうなんですかー」と相槌を打ちながら。
えらい!!。
こちらのブースでは、私も院長も歯科助手の人も、みんなでお互いに目を合わせ、笑いを必死でこらえて治療になりません。
これでは危険なので治療は中断。
院長が口に人差し指をあてて、私の診察台ももとに戻してくれて、黙ってみんなでニコニコして話を聞いていました。
そこに熊のように大きな先生の登場です。
「はい、今日はどうされましたか?」とカラダに似つかわしい大きな声でたずねます。
「昨日は雨がひどかったでしょ。だから………」
ここぞとばかりに、おばちゃんは大きな声で再度説明を始めますが、それを熊先生はさえぎります。
「はいはい、雨はいいので歯はどうされましたか?」今度は優しい声です。
「はい、ミルキーが詰め物が取れました」あら、おばちゃん素直になりました。
「ミルキーが、ではなくてミルキーでですね。まあ、その情報はいらないですけどね」
穏かな声で言葉の間違いをおばちゃんは指摘されます。
ペースはすっかり熊先生。さすがです。
W杯2022、ドイツ戦に日本代表がとった前半(歯科助手)と後半(熊先生)の戦術と同様の変わりようです。
先生は優しんだか厳しんだか。いや、こういう人ほど厳しいのでしょう。
こちらでは、まだまだ次の展開を期待してみんな耳をそばだてています。
もちろん私の治療はまだ始まりません。
「はい。和菓子が嫌いなもので、それでですね……」
おばちゃんは、まだしゃべろうとします。
「はい、はい、わかりましたよ。では、おーきく口を開けてください」
先生は完全に無視して治療が始まりました。
ほどなく私も。
歯医者というだけで緊張感満載の雰囲気だった私は、この会話ですっかり肩の力が抜けてなごみました。
その後の治療も、リラックスしながら楽しく過ぎていき、過去最高に楽しかった歯医者さんとなりました。
この会話を録音して緊張している患者さんのときに流すといいかもしれません。
しかし、私も気をつけないといけません。
きっとおばちゃんより歳が上のはずです。
今後はいろんな場所が無駄口をたたかず、聞かれたことに答えるように心がけます。
いろんな場所がではなくいろんな場所でですね。