南の中学進学に際してお祝いをたーくさんいただきました。
お返しのお赤飯生産が追いつかず、お赤飯インフレをおこした我が家は不本意ながら外注をしました。
南のおかーさんと受け取りに行くと、狭い駐車場に車をおさめようと手こずっているおばちゃんがいました。
うちの車を見たと同時におばちゃんは電光石火でそれをあきらめ、駐車ラインを踏んだままの斜めにとまった車からあたふたと降りて、異常な早足でわれ先にとお店に入って行きます。
急ぎすぎて自動ドアにバッグをぶつけてしまいます。
落ち着けおばちゃん。
われわれは敵ではない。
カウンターには外国人とおぼしき女性が1人だけ。
ダッシュに成功したおばちゃんの会話がはじまります。
「頼んでいた赤飯をとりにきましたー」おばちゃんが大きな声で伝えます。
「ソレハ、チュウモンシナイトデキマセン」やはり彼女はカタコトです。
「だから頼んでいますよ」
「ダメデス。ココデチュウモンシテクダサイ」
「だから、受けとりに来たんですって」語気が強まるおばちゃん。
「トリニクハ、シリマセン。トニカク、チュウモンシテクダサイ。ワカリマセンカ!!」
短気な彼女はカウンターの中で怒ってしまいました。
受け取りはトリではないのよ、と後で教えよう。
カウンターの防衛ラインを境に日本と敵外国と戦争の危機です。
相手国はどこかわかりません。
日本「あのね、電話でお願いしますっていったのよ。で、ん、わ、で。」
敵国「デンワハダメ。ココノ、チューモンショニカイテクダサイ」
日本「だから、電話でよかったんだっていってるじゃない。聞いてるのあなた」
敵国「ダメナモノハダメ。ワカッテナイノハアナタヨ」
日本「なによ!!。あんたこそなにもわかってないくせに!!」
敵国「トニカク、ダメナモノハダメダメ」
両手でバツ印を作りおばちゃんの目の前に突きつけます。
赤飯危機。
顔を真っ赤にして核ボタンに手をかけたおばちゃん。
「あのー、頼んでいたということばがわからないのではないですか? 注文していたと伝えたほうがいいですよ」
駐車場で出し抜かれた南のおかーさんが、たまりかねておばちゃんに助け船を出します。
「お店に出ている以上はわかってくれないとね!!。プロなんだから」とおばちゃんの興奮は収まりません。
プロなんだからってよくわからんけど。
異変を察した奥で忙しそうにしていた、店主とおぼしきおばちゃんが手を止めて、どうかされましたか?と出てきました。
一連の流れを南のおかーさんが店主に説明します。
店主は「頼んでいた」=「注文」と解釈できなかったことへのお詫びをし、おばちゃんの名前を聞いて確認のためにお店の奥に消えます。
店主はすぐに出てきて
「あのー、私どもでは承ってないようですが」すまなさそうに伝えます。
「いえ、電話でお願いしたのよ。いえ、注文したのよ」
そこはお願いでもいいでしょ。
「電話注文表も確認しましたが載っておりません。確かにうちでしょうか?」
「ここしかないわよ。うちから一番近いんだから。今日は買い物ついでだから車だけど電動がついてない自転車でだってこれるのよ」
電動がついてないって言わないといけないんだ。
「ほかのお店ではないですかね。たずねてみますね」
「ここしかないって言ってるでしょ。自転車でも来れるんだから」
切り札は自転車のようです。
「念のために聞いてみますね。お待ちください」といって再び奥に消える店主。
その間、敵国はベーっと舌を出し、日本はにらみつける一触即発の状態です。
みているこちらは、その様子がどちらも感情むきだしで幼すぎておもしろい。
「あのー、本店に確認したら隣の県の〇〇店にお電話で注文されていましたようです」
衝撃の事実が発覚します。
「アラー、ジテンシャデハイケマセンネー」といらんことを言って勝ち誇る敵国。
「あなたは、もういいから」と店主にたしなめられる敵国。
「おかしいわね。絶対ここに電話したんだから。何かの間違いだわ」
往生際の悪い日本。
「どういたしますか?。これからいかれますか?」
「もちろんですよ。車で行きます!!」
自動ドアに再度ぶつかりながら出ていくおばちゃん。
駐車場から急いだ件は泡と化す。
お隣の県までは50数㎞。
店主がおばちゃんを見送る間に、私たちは敵国の彼女のウインクを受けながらも、ソフトランディングを目指して用事を申し付けます。
「注文していたお赤飯を受けと……、えっと、I Oredered Red Rice…、お願いします」
南のおかーさんがにっこり笑って優しく伝えます。
赤飯ってRed Riceでいいんだ。
お店を出て聞いてみると
「よくわからないけど、思いつかないから直訳で伝わるかなって。通じましたね」と屈託なく笑っています。
度胸と謙虚さが一番です。