「おかーさん、ばーば!! 西がかーちゃんとケンカしよった」といいながら南が帰ってきた。
「おかーさんは買い物よ。東くんじゃないの?」
「西だよ、に、し」
「西くんが転向してきてから東西南北が揃ってややこしい」
と北君のおかーさんの言葉に時差を置いて納得する。
これに南の主語のない説明が加わるのだから、話を聞く方は大量の記憶装置と、人と時系列のソーティングが必要になる。
時々話に女の子が大量に入ってくる。
そうなると私の頭ではついていけない。
スーパーコンピュータの「京」に頼りたくなる。
先日はミユちゃん、マユちゃん、マオちゃん、ミオちゃん、リオちゃん、ユイちゃんなどが話の中に投入されるものだから、卒業アルバムを持ってきて確認しながら話を聞いたが、話が入ってこない。
歳のせいではないからねと、自分の理解力の乏しさに私は向き合わない。
話を戻して。
「ところで、あんたなんで関西弁なん?」と関西弁でたずねる。
「あー、西が関西弁だからうつったかな」と、南が靴を揃えながら言う。
「西君の説明をするときはフツーに戻れば」
「ちゃんと伝えようとすると、そうなるんだよね。いいじゃん話を聞いてよ」
「シャワー浴びてからね」そのまま部屋に入ろうとする汗だくの南を制する。
☆ ☆ ☆
西くんを誘いにいったら、理由はわからないけどおかーさんが
「あんたそんなことで世間様からどう思われるかわかっとるん?」
と怒っていた。
いつもお母さんとケンカしている西君は猛然と反発。
世間ってだれや?
様ってつくのは何なん?
えらいんか?
どこからどこまでが世間なん?
それってどこにおるん?
住所は?
携帯もっとるん?
SNSしよるんか?
かーちゃん大激怒の中、西くんは家を飛び出してきたようだ。
うちには無いパンクでハードなやり取りに、戸惑いを覚えつつ心配する私に
「西の所はいつもだよ」
と南は平和な顔で言い放つ。
おやつのパンを食べながら一通りの説明が終わると
「でさー、世間様って何?」と南の恐怖の質問タイム。
☆ ☆ ☆
世間って社会が作りだした妄想で、社会の暗黙の空気的な価値みたいなもの。
他人から見た目。
いい意味で配慮や気遣いにつながるけど、悪意味では負い目がでたり、甘えたり。
マスクをするとかしないとか。
いい学校に行っているとかそうでないとか。
いい齢して家にいるとか。
大企業に勤めているとか。
彼氏がお金持ちとか、かっこいいとか。
ばーばがお化粧しないと絶対に外に出ないとか。まあ、これは身だしなみといって女性としては大事なことなんだけどね。
だから、考え方次第ではどこまで大きくなるし、どこまでも小さくなる。
それが正しいかどうかも定かではない。
気にすればどこまでも気になるし、気にしなければ全然気にならない。
気にしすぎても困るし、気にしすぎないのも困る。
なくなって困るものかどうかもわからないのが世間体。
ほら、ユーミンの曲に「5cmの向こう岸」という曲があるじゃないあれよ。
つたなくとりとめもなくしゃべる。
説明がヘタできっとうまく伝わらないだろうなと思いながら。
それを聞いた南は
「ふーん、世間体って面倒だね。ばーばが嫌いなプリン体みたいだよね」
と無邪気に的を得る。
ビチっとなる私。
南くん、世間様の前でそんなことを言ってはいけませんよ。
ばーばにも世間体がありますから。