我が家の庭に、ここ数日1羽のかわいい鳥が煩雑に姿を現すようになった。
庭の木や塀につかまりながら、庭中を飛びまわっている。
私が外に出ても飛び立つ気配は全くない。
逃げようとしないどころか、1mくらいの距離まで近づいてくる。
とても人なつっこい。
そして、何度も目が合う。
鳥に見つめられる経験のない私はドキッとする。
気があるのかしら?
あら、年上が好きななななのね?
鳥どころか人にも見つめられないので、興奮して字までうろたえる。
ところで、あなたはだれ?、ウグイス?、ちがうわ、この辺りでは見かけないわね。
そんなに無防備でいいの?
ふつうはね、人が動いたらパッと逃げるものなのよ。
そんなんじゃだめよ、すぐに焼き鳥にされちゃうわよ。
世の中で一番心が洗われるのは「朝の露」だとお釈迦さまはおっしゃいましたが、この1mに満たない距離で鳥と見つめ合う瞬間は、その朝露におひさまが当たって輝く瞬間にも勝るとも劣らない。
☆☆☆☆☆
南が帰ってきたので、おやつのドーナツを出していると庭先に影が走った。
「今日のドーナツ、いつもより穴が小さいね」と、私の成型ミスを指摘している南をうながして、いやごまかして、さっそく現れた鳥を見にふたりで庭に出てみる。
「ほんとだ、逃げないね」
「いつも一羽でくるのよ」
「友達いないんだ。かわいそうだね。きっとさみしいんだよ」
「目が合うから、私のこと好きなのかもよ」
「それはないな、オレとも目があったもん」
「えー、私に最初にあったから近づいてくるから、きっと一目ぼれだと思うわ」
「では、そういうことで」
とあきれながら、ipadをとりに家の中に走る南。
数分後、家の中から町内中にきこえるような大声で南が叫ぶ。
「ジョウビタキだ!!。ばーば、ジョウビタキだって。迷鳥らしいよ」
「あなた、野球の練習中じゃないんだからもう少し声のトーンを落としたら」
「名鳥って名刀と同じで、すごい鳥ってことかな」
「それ漢字がちがうでしょ。迷鳥の意味を調べたら?」
「渡りの途中で迷い込んだらしい。小さいのに渡り鳥なんだね。うちのはメスだよ。オスはオレンジらしいよ。なわばりに厳しくてケンカするから一羽で行動するんだって」
南がジョウビタキの生態を町内に流す。
えーっ、メスってですか。
あんなにドキドキしたのに。
南はいつの間にかオレンジを半分に切って、庭の木に刺そうとている。
エサを与えて、手名づけようと思っているようだ。
うちのメダカたちみたいに。
「そういえば学校で6年の一部の班が掃除をしてなかったから、先生から普通のことをきちんとやればそれは特別なことに変わるのです。だから、きちんとやりましょうって言われてたけど、オレは違うと思うんだよね」
木に登ったままで南が、学校でのリスキーな出来事を話すので
「町内中に聞こえるでしょ。もっと小さな声で」
とたしなめる。
南はかまわず、オレンジを鳥が食べやすい位置に工夫しながら続ける。
「普通のことはどこまでいってもフツーで、別に特別感を出すんじゃなくて、そのフツーのことをフツーにキチンとやれ、って言うだけでよくないかって思うよ。野球でゴロが取れるのは普通で、特別な話ではないでしょ、
それを特別だって言いだすと進歩しないよ」
と、町内中に不満を散布する。
ただ、言ってることはあってると思う。
「なんでも、きれいに優しくまとめればいいってコトじゃないし、特別に変わるってどう変わるんだよって、変わんないって」
「美化しないで、フツーのこともやれねーのかー!!、でいいのにね」
「ばーばの言葉はちょっと悪いけどね」
と言いながら、南が木から飛びおりる。
えー、まって、あなたの勢いに合わせてみたのに、おいてきぼりじゃん。
その時、飛び降りた音に反応して、ジョウビタキも飛び去っていった。
今までの興奮はどこへやら、「すぐに戻っておいでー、ごはんがあるよー」と、飛んで行くジョウビタキを追う目は、すっかり優しい南に戻っていた。
時々みかける、南のこのギャップが私は結構好きなのだ。