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ばーばと南 + Run&Music

ひ―ばーちゃんの入院顛末記 Part2 ~ ポテトサラダの真実

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全員がそこに潜んでいたみてはいけないものを発見する。

 

それは、冷蔵庫の中に潜んでいた。

 

大量の賞味期限切れの調味料や食べ物が。

 

・数年前に期限が切れ、開封していないままの味ぽん

・使いかけのまま期限が切れた、数本のマヨネーズやドレッシング。

・タッパーに入ったままのたくさんのおかず類。

・ビニール袋の中で心配停止中のキャベツ。

・冷凍庫に整然と納まっているものの、完璧にやさぐれた肉と魚たち。

・いくつもの芽が出ている数個のじゃがいも。

・庫内でヨガでも習っていたのか、柔軟性を獲得した人参やキュウリなどなど。

 

 

誰かが「終わってる……」とつぶやく。

 

パンドラの冷蔵庫を前にして、全員の頭に浮かんだのはそう、

 

「ポテトサラダ」。

 

次の瞬間に、肩を落とし気持ち悪くなる者、数人。

 

 

ひーばーちゃんは、ポテトサラダが得意で、

せっせと作っては、みんなにせっせと配っていたのだ。

 

せめて塩コショウくらいはと私が調味料入れに走るが、各調味料も安定の期限切れ。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

ひーばーちゃんの家にあるものは、新聞と本以外、食材からなにからビニール袋に包まれてしまってある。

ひーばーちゃんは全てのモノをビニール袋で覆う癖がある。

「ポテトサラダ」にも負けない生命力を持つお嫁さんたちの行く手を、そのビニール袋が阻む。

押し入れ班やキッチン班も、目的にたどり着くまでには幾重にも重ねられ、そこに重大な秘密でも眠っているかのように口を固く結ばれたビニールと格闘をしなければならない。

キッチンの下の鍋類も全て二重のビニールの中。

傘立てにさしてある、5~6本の傘も、ひーじーちゃんが使っていた将棋盤と碁盤もビニール袋の中にある。

 

どうして包むかな!!

 

 

大きな大きなビニール袋があればきっとこの家も包んでいるに違いない。

 

 

「ビニールにこれだけ心も体力も奪われているのは、宇宙で私たちだけよね」とみんなで明るくバカな会話をするしか、気はまぎれない。

 

おそらくこんな経験は最初で最後…………、

 

 

 

 

 

 

ではない。

 

ひーばーちゃんは確実に戻ってくる。

 

対抗するには、少しでもモノを減らしておくことしかない。

インフレをおこしているので緊縮財政だ。

そこへ、押し入れ班からの報告がある。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

大手クラウドサービスですら受け付けないほどのムダなものリスト。

 

・10年前の薬や軟膏類、数年前の目薬。

・ひーじーちゃんの昭和の給与明細が数年分。

・20年以上前に作った梅酒の瓶が5本。

・大量のプラスチック容器やスプーン類。

・ブランド物の洋服のタグとレシート。

・40年前に凝っていた編み物用の毛糸。

・布団7組。

・めくった痕跡のない絶版の平家物語源氏物語

・今は使っていない掃除機のゴミ袋の替えが数十枚。

・紙袋と緩衝材のプチプチとスーパーの生ものを包む透明な袋が100枚ほど。

・一獲千金を夢見たのか、アロマオイルのサンプルと代理店契約書まで。

 

これらが、衣装ケースやお菓子の缶の中にきれいに並べて入っていて、押し入れにきちんとしまってあったようだ。

「私はきれい好きなの」とことあるごとに言っていた背景はこれだったのか、と納得はしないが理解はする。

 

ひ-ばーちゃんの意図と外れたものは、押し入れの奥から出てきた干からびたハチの巣と、同様に干からびて平面図になったヤモリだけだ。

 

そして、またしても見てはいけないもの、いや見せてはいけないものを発見。

封の空いていない子供や孫たちが送ったお中元や、お歳暮の品々がでてきた。

 

世代を超えて怒る男性陣。

憤る女性陣。

 

ラスボスは、子どもたちの名前が入った60年前のおまる

 

 

庭の軒先で30を超えたゴミ袋に囲まれながら、おまるをのぞき込んでいるところに、キッチンの片付けをしていた次男のお嫁さんの悲鳴が届く。

各部屋からなにゴトかと皆がかけつける。

彼女が右手の親指と人差し指でつまんでいる醤油さしの中には、コバエがたくさん入って死んでいる。

 

どこからパンチが飛んでくるかわからない井上尚弥の世界戦の挑戦者はこんな感じなんだろう。

心は折れ戦意は奪われる。

 

知性を上回る忘却なのか、固執なのか執着なのか。

ひーばーちゃんはどうしてしまったのだろう。

最初は「なんなのこれ!!」と、怒りモードだったのが、だんだんと心配になり、今は少し悲しくもなってきたし、かわいそうとも思えてきた。

 

ひとまず休憩をとり、病院にいるひーばーちゃんに次男が連絡を取ることにした。

拡声にした携帯から、「はいはーい」と軽井沢か伊豆のリゾート地にいるような元気のいい軽い声が響く。

 

 

                             つづく