南の野球の試合を見に行った時のこと。
南たちはベンチも入れて全員が6年生。
相手は6年生数人に5年生と4年生を足しても9人に満たずに、3年生まで混ざったチーム。
南たちのチームは、1回の表の攻撃は30分間で15点をとった。
まだ野球を始めたばかりのような、小柄な子どもたちが内野を守っていて、その幼さからエラー続出。
それでも、6年生のピッチャーは嫌な顔一つせずに、文句も言わずに投げ続ける。
南たちの1回裏の守りは、ピッチャーの好投で相手チームを三者三振に仕留める。
2回の表も打者一巡で6点をあげる。
相手はあいかわらず内外野のエラーも多く、2回終了で21-0。
聞けばコールドが成立するには、5回まで進む必要があるらしい。
試合時間は90分。
これでは5回を待たずに、90分間殴られっぱなしの可能性が高い。
その後も南のチームはヒット、四球、エラーとあらゆる形で出塁し、どんどん盗塁してどんどん得点する。
時間は進むも、回はいっこうに進まない。
エラーでの出塁は仕方ないとしても、そろそろ盗塁はやめてあげたらと、私は内心思っていた。メジャーでも10点だか何点だかの大差がついたら盗塁をしないと暗黙の了解があると聞いている。
こんな試合をして負けた相手は、その後野球嫌いになるのではないかと不安になる。
おとーさんたちの一人が、たまらず試合後に監督にたずねた。
大差の中でどうして、あんなに走らせたのですか。
監督は、サインは出してなかったけど子どもたちが勝手に走ってですね、ハハハハと答える。
走っては行けないと一言いえばよかったのにと、保護者がざわつきだした。
私と同じように思ってくれていた保護者もいたんだと思うと少し安心した。
勝ったにしろ後味の悪いものが残った。
ただ、それでも感心させられたこともある。
3年生のサードの子、4年生のレフトの子をはじめ、どんなに点差が開いてもワンアウトを取るために、ファールゾーンに必死にダイブして行く姿は感動的だったし、そのプレーに私がそっと心で拍手をしていると、南のチームの保護者からは大きな拍手と歓声と励ます声が沸き起こった。
もともとどんなに均衡した試合でも、相手チームへの賛辞を忘れない保護者の集まりだと聞いていたけれど、目の当たりにすると心が洗われる。
南のおとーさんに、このような態度は保護者会の取り決めなのかと聞いたところ、そうではなく6年生の保護者は自然発生的に最初からこんな感じだったよ、と教えてくれた。
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南が帰ってきて、おとーさんと今日の試合のことで話をしていた。
私も聞き耳を立てる。
内容をまとめるとこのようだった。
試合というのは、相手もこちらも、からだと心が傷つかないように終えなければならない。
今日の試合で2回以降の盗塁は、不必要なものだったと思う。
相手を必要以上にコテンパンに叩きのめしてはいけない。
ボクシングでいうと倒れた相手を殴りに行ったような試合展開だった。
過剰に相手を叩きのめす勝利にはなんの価値も持たない。
戦ってくれている相手に対して敬意をもたなければならないよ。
一生懸命打つ、守るのはいい、その結果相手がミスをするのは仕方がない。
しかし、15点取った後にガッツポーズをとるものもいたが、それはいらない。そもそもガッツポーズは必要ない。
点差が空いたら肩の弱いキャッチャーに向けて、盗塁をどんどん仕掛ける必要もない。
そこにお前たちのチームが得るものは何もない。ルールにのっとった弱い者いじめとなんらかわらない。
相手のキャッチャーのメンタルを必要以上に傷つける行為だったね。
手を抜けという話ではないことは、南ももうわかると思うから、次の試合からは気をつけよう。
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途中から選手がほとんど後退したものの、結局30点以上の得点と、ピッチャー二人でノーヒットノーランというおまけつきで試合は終了し、南たちは2回戦へ進んだ。
次の試合は練習試合でも負けておらず、楽勝ムードが漂う中、バッターたちはブンブン振り回したあげくに、相手ピッチャーを打ちあぐねて接戦を落とした。
以前対戦した時よりもうまくなってたよ、と南が話してくれた。
小学生や中学生の間は、ちょっとしたきっかけや月齢が進むことで、身体能力が見違えて上がるものだ。
1回戦で負けたチームも悲観することなく、成長してほしいと思う。
それよりもなによりも、もう少し敗者に優しい、敗者をカバーできるルールにならないものなのだろうか。
それこそ8点差以降は盗塁禁止とか。
点差にしても5回を待たずにコールド、もしくはギブアップできるようにとか。
まだ、小学生なのだ。
メンタルに関しては、まだまだ、小学生なのだから。