男の子同士がお互いの容姿をののしり合った結果、個性を否定したということから
「個性をどのように思うか」と、クラス全員に向けて担任の先生が問いました。
そんなことは全く考えたこともないセミのように過ごしてきた南(小6)は、すっかり困り果てて帰ってきました。
ちなみに、のの知り合いの内訳は「髪がぼさぼさなんだよデカいの」、「髪が茶色なんだよチビ」という、第三者にしてみれば微笑ましい内容です。
☆ ☆ ☆
「人はそれぞれ、顔も形も考え方も得意なのも苦手なものも人それぞれだから、それで十分個性的でいいのではないかな。そこを責めたから怒られたんじゃない?」
と結論めいたことを話してみる。
「虫もそうだよ。魚だってそう。桜だってそうじゃん」
「じゃあ、生き物はみんな個性的じゃない」
「でも、それだけだと何かが足りないんだな」
「ばーばの説得力がないのかな」
「人と違うからそれが個性って、なんかいまいちパンチに欠けるなー」
「あなたの違和感は、いいも悪いも含めてその人の個性ですませていいのか、みたいなとこからくるのかしら」
「いや、そうじゃなくて。悪い部分は個性と言ってはいけないと思うけど、だからといって個性個性って個性にこだわりすぎじゃないかって思う。まーそれも大事だけどそればっかり言われてもなーって感じがする」
「わかる気がするわ」
「女の子で髪をぼさぼさにしてくる子がいるんだけど。それって個性じゃないよね。ただだらしないだけじゃん。それを個性だからって逃げてるのはだめだし、髪の色が茶色いのも個性じゃない。それはそういう髪質なだけだろって思う」
「個性の範囲を都合よく広げすぎて、逃げの手段になっていることが納得いかないのね」
「ん-、言えば言うだけ個性が死んでいくような気がする。理由はわからないけど」
「そうかもしれないわね。自分らしくとかもよくいうわよね。奇抜な格好や特殊な考え方をする人がいるけれど、それは個性?」
「自分らしくってなんだよそれって思う。自分のことなんて自分が一番わからないでしょ。自分の評価は人に任せておけばいいんじゃない」
「モヒカンとか奇抜な格好や特殊な考え方は?」
「ただ変わってるだけだよ。個性でもなんでもないんじゃない。自分らしくとかでもゼンゼンないし。逆に無理して疲れないのかって思うよ」
「自分でいくらあーだこーだ言っても、外の世界から見た評価があなたの評価になるのよね」
「そういうことだけど、オレは別にそれはどうでもいいと思う。まあ、褒められたら嬉しいけど。自分らしくって自分にかまっている間は成長しないかなって思う」
☆ ☆ ☆
「野球で言うと?」
「野球で言うとかー、ばーばも難しいことを言うねー。ん-と、できないことをできるようにしたいから練習するでしょ。できもしないのに自分らしくとか言ってる場合じゃないんだよ」
「できないことをできるようにしたい、ということがあなたらしいんじゃないの?」
「そうかもしれないけど、やってる間はそんなことを考える暇なんてないし、そもそも楽しくないよ。集中もできないでしょ」
「そうね。楽しいって大事よね」
「でしょ。自分らしくとか個性とか言っている間は何やるにも楽しくないんだって。なんかジャマなんだよねそういうの」
「そうか。自分らしくとか個性的とか言っている間は、それができてないから声高に言わなきゃならないと考ると、最初から負けてるって感じで楽しくないのかな。スポーツの世界では特に」
「それもあるかもしれないね。そこに興味はないのにどうして個性とか自分らしさとかをわざわざ言われなきゃならないのかがわからない。みんな違うのが個性なら、ほったらかしにしておけばいいんじゃんって思う」
「そうよね。人と違った個性を目指すなら、私欲を捨てる事じゃないかな」
「地球上は我欲だらけだって先生が言ってたよ」
「そうよ。だから私欲を捨てたら少数派となってより個性的になると思うんだけど」
「それは無理だね。私欲がないと成長しないって、先生が言ってたよ」
☆ ☆ ☆
個性について全くわからないと顔をしかめ首をひねり帰ってきた南ですが、おやつの焼きおにぎりや、揚げたてのフライドポテトを食べながらリラックスした雰囲気を心がけて話をしてみました。
野球の事から考えを広げると意外や意外、いろんな考えが出てくるものです。
普段の様子からすると、いつそんなことを考えているのかしらと不思議に思います。
まだ小学生なので、大人がちょっとしたきっかけを与えたることで堰を切ったように話し始めるものです。
話の内容はさておき、孫とたくさんコミュニケーションが取れたので私は大満足です。
お父さんが帰ってきたら、同じように話してみるそうです。
男同士の会話は、私との簡単な会話がどうのように深く広く発展していくのか、こっそりのぞいてみたくなります。
「男同士」、そんないい方をすると多様な個性をつぶし、日本のジェンダーギャップ指数を下げると怒られるのかしら、と自分らしさを横に置きながら心配します。