南が6年生のとき、ドッヂボールのクラスマッチで優勝した時のこと。
「ドッヂボールはチームワークでしょ。いつもクラス全体仲がいいの?」と聞くと、
「普段は男子女子バラバラだし、クラスマッチなんかもギリギリ10日前とかにならないとみんなやる気が出ない」と南が答えます。
「でも、リレーやバレー大会も優勝したんでしょう」
「練習時間やポジションのことでずっとグチグチ言ってても、やる気をだしたときの団結力は強いかな」
「どうしてそんなにスイッチが入るのかな?」
「やる世界とやらない世界があって、その間には橋があるんだよ」
「えー、面白い発想」と感心しながら先をうながす。
「最初はほとんどがやらない世界にいて、だれかがその間の橋を渡るんだよね。そうしたら次々とオレも私もって、渡ってくる感じでまとまっていく」
不思議な発想です。
魂レベルで物事を見ることができるのでしょうか?
といいように考えているところに衝撃の一言が。
「クラスのみんなでやると楽しいんじゃないかと思って、最初の人が渡るとみんなついてくるけど、オレが目立ちたいみたいなことが心の底にあって、みんなを刺激しても誰もついていかないよ」
「みんないやらしさをよくわかっているのね」
「でも、先生からは、こんなに委員がはりきっているのにどうして協力しないの?と言われる」
「それは、先生も言いたくなるでしょう」
「協力したくないようなはりきりかたするからだよ。みんな楽しくないじゃん。それに、それが押しつけだってみんなで言ってる」
☆ ☆ ☆
「人を動かすのって難しいのよ」
「知ってるよ。特にうちのクラスはね。納得しないと動かないし」
「どうやるの?」
「できるやつは言わなくてもやりたがるんだよ。問題はできないヤツをどうするか」
「ふーん。具体的にはどうやるの」
「リレーのときは早いヤツの間に遅い子を入れて、オレたちがいるから大丈夫、お前は自分なりに頑張れって言いながら励ましたり。バレーのときはレシーブが1回でもできたらほめてミスをしても、いいから次頑張ろうねと言って責めないようにして、練習のときに少しずつ自信をつけさせる」
「ほー、みんなやるじゃん」
「そうやってると、だんだんチームワークが出来てきてクラスがまとまる」
「人のために動くことで輪ができるのね。みんなすごいわね」
と褒めると、そんなクラスの象徴的な話してくれました。
それは、男女混合リレーでのできごとです。
☆ ☆ ☆
南のクラスは予想通り順調に中盤までトップできました。
その時、トップで来たら差を開く、2位以下で来たらトップに出る役割として並べた2人の足が速い子同士でトラブルが生じます。
バトンの受け渡しに失敗して、落としたバトンを他クラスの走者に大きく蹴飛ばされてしまいます。
次のランナーは懸念されていた学年の中でも足の遅い彼です。
ショッキングな光景に最下位に落ちたクラスはあきらめムードでした。
しかし、彼は同走の組み合わせも良く、頑張って一人抜いてからというもの、みんなのスイッチが再び入ります。
走り終わった子どもたちは立ち上がり大声で応援し、先生に座るようにうながされますます。
先生を無視した声援に背中を押されたかのように、後ろの走者たちがトップとの差を詰めます。
一人抜き、二人抜きとじわじわトップを追い詰め、最後のアンカーが逆転して優勝しました。
アンカーの役割を十分に果たしたその子はみんなに頭や背中を叩かれながら、「お前は抜いて当然だろ」と茶化され、その足の遅い彼の走りをクラス全員で称えたそうです。その子はオレじゃないよと恥ずかしそうにしていました。
☆ ☆ ☆
感動的なリレー大会の後のバレー大会はその勢いをかって優勝したのかと思いきや、ポジションでもめ、組み合わせでケンカになり、昼休みと朝早く集まる練習時間で男子女子でもめまくって落ち着いたのは1週間前。
落ち着いた原因はゴキブリでした。
昼休みのチーム割でもめているみんなの足元にゴキブリが突如現れて、教室が大パニックになっているところで、サッカー部に所属している真っ黒に日焼けした男勝りの女子が足でバンッ!!と踏みつけてごみ箱に捨てたあとで、
「いつまでももめてると、ゴキブリみたいに他のクラスからやられちゃうわよ」
と言った一言からだったらしいのです。
それに輪をかけてバレー大会委員の男子が、
「ゴキブリはぼくらの負のエネルギーを食べに出てきたので、もうゴキブリに出て欲しくないみんなは仲良く団結しよう」とハリキッってまとめようとするのを
「はいはい、あなたが優柔不断だからでしょ、じゃあやるよ」と女子のバレー大会委員が引き受けていろいろと決めて行ったのでした。
「強いんだから、最初からどうしてさあやるぞーってならないのかしら」
私の問いに対して南曰く、
「まとまりすぎるのも、遠慮したり油断するから本番によくないんだよ」
「そんなものかな?」と私が怪訝そうにしていると
「そんなものだよ。よくわからんけど勝つからいいんだよ」
と南は楽しそうに答えます。
担任の先生は、普段から男子女子の垣根はなく、昼休みなどは男女が一緒に校庭で遊ぶ、まれなクラスだと評価しています。
クラスマッチに挑むにあたり、最初は自我むき出しで混沌としている子どもたちは、自分の中に閉じ困らず自由に表現をするのでしょう。
そのうちに与えられた環境を楽しむのであれば、そうばかりは言ってられないぞと思い、思い直すことができる子どもたちの才能は素晴らしいと思います。
このことを南に伝え同意を得ようとすると
そんなことは考えてもいないよと言わんばかりに
「そうなのか」
と一言、興味なさそうな様子でした。
正しくたくましく「育まれている」最中の子どもたちに対して、
ばーばの蛇足でしたね。