中学1年生の南たちのクラスには不登校の女子が1人います。
授業にはZOOMで参加しているそうです。
ある授業の終了後、一人の男の子が
「そっちは楽しいかい?」とたずねました。
「まあまあ、かな?」と笑顔で返事が返ってきます。
クラス全体が「おーっ」とざわつきます。
「じゃあ、いっときそっちで楽しむといいよ」と別の男の子が大きな声で彼女を受け入れます。
「うん」
「学校も楽しいから、いってもいいかなーってと思ったらおいでよ」
と女子の学級委員が変顔をしながら誘います。
「あー、でも授業はかったるいかもよ」
「休み時間はその分楽しいよ」
「嫌な授業のときは保健室にいたらいいよ」
「そうそう、休み時間に遊びに行くよ」
「男子はバカだけど、重いものを持ってくれたり優しくておもしろいよー」
「バカって言うな―」
「そうだよ楽しいよ、よかったらおいでねー、待ってるねー」
「給食だけでも食べにおいでー」
「一緒に食べよー」
クラスのみんなが口々にZOOMの画面に向かって手を振り声をかけます。
「うん、そうするね」と彼女の明るい声。
南たち数人は「無理するなよ」と声をかけたそうです。
☆ ☆ ☆
中学入学時の一番の心配事は、クラスの雰囲気でした。
新一年生の誰もかれもが、どの親もとても心配したことと思います。
南のクラスの話を聞いていると、それは杞憂に終わりそうです。
普段の南のクラスは男子と女子は当然バラバラに好き勝手に過ごしています。
いざ運動会や宿泊授業、水泳のリレー競争、そのほかのクラス対抗での競技やテストなどの団結しなければならない時には、ものすごい結束力と集中力を見せる様です。
その団結力で運動会、陸上や水泳などのクラス対抗競技を全て制してきました。
それには学校の方針が一躍かっていました。勉強や体育や生活全般において、できていない子へのサポートを、できている子たちが労をおしまずに教えることを習慣づけているのです。
「人に教えられるようにならないと、自分だけできてもダメって言われる。だからどうやったら教えられるかなっていつも考える」と南はいいます。
男女問わず、教える側と教わる側が常に入れ替わりながらクラスでの生活を過ごしている様はクラスに活発さと優しさを育み、それが冒頭の不登校の子への声かけにつながっているように思えます。
男子の幼さを暖かい目で見てくれて、クラスの中で泳がせてくれている女子。
おちゃらけているけれど、いざという時には女子のか弱さに手を貸してくれる男子。
中学生は家庭や友だちや勉強のことで小学校の時よりも悩むことが多くなり、ほおっておいてもカドの立ちやすい年齢です。そんなときに、クラス中が毎日笑顔で過ごせていることは奇跡的です。
このような空気を作ってくれている先生や友だちに感謝を忘れないように、と家庭内で声をかけあいます。
私は先生がたが、普段から子どもたちにどのような声掛けをしているのかに大変興味があります。
南によくたずねるのですが、「ふつーだよ」としかいいません。
この年の男子は何を聞いても要領を得ません。
その要領を得ない子がアウトプットを意識して生活しているなんて、余計に担任の先生の手腕に興味がわきます。