昨年、
タピオカとたこ焼き屋を始めるといって脱サラした人が店をたたんだ。
デイサービスを始めた人が施設をたたんだ。
コンビニを始めた人はオーナーを降りた。
3人とも昨年1月にそれぞれが開業の相談で私のところへこられた。
私は「気の利いたアドバイスはできないので」と断りを入れたが、
強くお願いされたのでお会いすることにした。
3人は業態は違えども、失敗に至る共通項が多かった。
それぞれの開業動機は次の通り。
タピオカはまだまだはやっていて、たこ焼きは永遠の日本食だから。
高齢化社会だからデイサービスを開ければ賑わうこと間違いなし。
コンビニのオーナーってステイタスでしょ。子どもたちも学校で自慢できるし。
3人とも開業に自信満々でこれっぽっちも失敗などは考えてもいなかった。
私への相談は「事業に関してどう思うか」という漠然としたものだった。
☆ ☆ ☆
「やりたければやったほうがいいんじゃない、というぐらいしか私にはアドバイスできないし、私が何を言ってもやるって決めているんでしょ」
とたずねる。
みなさん
「あなたならどうやるのか、具体的な感想をきかせてほしい」
と私に意見を求められて痛く困った。
「私ならどうやるかって、私ならやりません。やるのはあなたなので私の意見は必要ないのじゃないですか」
とお話しても
「もし、やるとしたらどうですか」
と譲らない。
粘りに負けてしまう。
私の意見は絶対ではないことを前提に、3人には参考程度に5つの指摘をした。
1.参入する業界はすでに先行している人たちが数多(あまた)いて競争が激しく、す
でに顧客の獲得を終えていること。
2.1.に対しての集客戦略と他との差別化がないこと。
3.収入の見積もりに負の要因が入っておらず、収支が甘すぎる計画であること。
現在の収入予想に対して30%減の負荷をかけて見直すこと。
4.運転資金のストックが2か月ほどしかなくスタートをしようとしている危険性。
5.開業動機のレベルが低いこと。
こういう風に厳しくいうとどの提案もあいまいに受け流されて、相談に来たわりには誰ひとり何ひとつ言うことをきく様子がない。
全員が、井上尚弥の挑戦者と同様に1年足らずで早々とダウンした。
☆ ☆ ☆
12月に入ってまた3人がそれぞれに報告と相談にやってきた。
「わかっていればもう少し厳しくとめてくれればよかったのに」
みたいなことを、だれもが言いたかったようだ。
加えて
「なにかいい仕事の口があれば」とも。
だから私ならやらないっていったじゃん。
あなたたちは大人の態度ではないですね。
こうやってなにもかも人のせいにするから失敗するのですよ。
とは思っても私は大人と思われたいので黙っていた。
ただ、何も言わないのもしゃくなので
「アドバイスを聞こうともしない人が、言ったところでそこでやめましたか。恋愛と一緒ですよ」
とだけは伝えた。
そうはいってもみなさん生活があるので、
まずは今後の責任のしょいかたを話して、失敗にきちんと向き合うことや
ここで人生が終わるものではなく、失敗からたくさん学んで、また復活してほしいことなどをお話した。
タピオカで脱サラした彼については、元務めていた会社の社長とは顔見知りだったので、お電話をして彼のわがままを許してもらい、復帰をお願いした。
あとのふたりは各々に仕事の面接を紹介して帰ってもらった。
☆ ☆ ☆
私は親から何でも押しつけられてきたせいか、人にこちらの考えを押しつけるのはとても気がひける。
「そっちにいっちゃだめなのになー」と思っても
それはその人の考え方なので、
失敗しても痛い目にあっても死なない限りは、
経験として味わうのも良いと思うようにしている。
それが倫理的に違っていても
一般常識から離れていても
タバスコみたいに味わってみないと加減がわからないのだから。
失敗した場合は、何度でも立ち上がればいいと思っている。
商売にスリーノックダウン制もKOもないのだから。
事業の失敗は「世間が認めなかった」からで、
手がけるその仕事が必要とされていないということになる。
起業に失敗すると本当に苦しくて大変だけど、人のせいにせず、くじけずに失敗に向き合ってその理由を消化していくと必ず復活は可能である。
でもね、みんなが納得する開業動機と、せめて半年の運転資金の確保は
開業の最低の条件ですね。