i-class collection

ばーばと南 + Run&Music

お客さま百景 ~ お金は貸しませんからね

あまり親しくない知人が「仕事上のアドバイスをしてほしい男性がいるので会ってやって欲しい」と言う。

 

きたぞ。悪魔の電話が!!

海中のゴジラキングギドラに反応するがごとく、左腕のガーミンの心拍計があがる。

 

彼女の頼み事はいつも砲丸のように投げっぱなしであることと、人を100%頼ろうとすることが当たり前のような相談者ばかりなので気乗りしない。

なんでもオレンジジュ―スのように100%であればいいというものではない。

ジェットコースターの行列に並んでいる気分だ。

 

私は、何もアドバイスなんてできるものではないし、脳も委縮してきたし、老いてきて髪もメドゥーサのように蛇に変わりつつあり、私を見て石になられても困るしと論理的かつ丁寧にお断りしたのだが、「どうしても」というので「少しだけね」といってお会いすることにした。

 

☆ ☆ ☆

 

過去には宇宙語が聞こえる素晴らしい方たちの相談にのったことがある。

「えっ、聞こえないのですか?」とたいそう驚かれ、すぐに仲間内でなにやらヒソヒソ話がはじまり、「聞こえる4人」対「聞こえない私」という空間は、多数決で私が圧倒的におかしいヤツ、可哀そうなヤツという空気に満ち溢れる。

 

「私たちのイニシエーションを覚えれば聞こえるようになりますから、ご心配なさらなくともぜんぜん大丈夫です!!」とおばちゃんの厚く塗ったルージュがはみでるほどの満面の作り笑顔で励まされる。

 

「毒には毒をもって制するのよ」と私の中の悪魔がささやく。

 

悪魔の提言に従う。

「まず、世の中すべてのものは陰陽で動いています。しかるに、宇宙語が聞こえるメリットとデメリットとを話してください。また、世の中はお金で動いています。宇宙語が聞こえるようになったら私の預金通帳残高はいくら増えるのかを知りたいものです。投資とリターンのバランスがあわない話にはのれません。ちなみに私は桜の木とダンゴムシカピバラとは話せるが必要であれば伝授しますがどうですか。こういったご縁ですから特別に割り引きますけど」と椅子の上で背筋を伸ばして逆襲した。

 

この攻撃は相当聞いたのか、頭がおかしいと思われたのか「いや、もう結構です」と速攻でご退場なさった。

 

☆ ☆ ☆

 

正確には仕事の相談ではなかった。

アトいくらあれば事業を立て直すことができるので、しいては資金をいくらか貸して欲しいと初対面の私に元カレのように頼む。

 

「事業上のアドバイスだったら少しは話せるかもしれないけれど、うちは金貸しではないので、銀行に行ってください」とお断りする。

 

事業上のシミュレーションやコンセプトを書いた紙も何もない。

事業の説明もはしょっただけ。

口頭で聞いた収入の計算が甘すぎるのは私でも容易に理解できる。

 

冗談で、うまくいったときの私へのリターンをたずねると口ごもる。

当然、自分の事しか考えていない。

そもそもこのくらいの話で私がお金を貸すと思われてるのに少し腹立たしくなってきた。

まあ、彼が私がナメられているというより、世間をナメているのだけど。

 

そんな感じだから普段からまじめに仕事をしている風ではない。

意図的にくだけた会話にもっていくと、今までの神妙さはなんだったのかと思うくらいに、しゃべるしゃべる。

話す内容は案の定、ゴルフのスコアと、夜の遊び友達の多さの自慢だ。

 

 

今、彼に必要なのはお金ではなく、生きたお金を稼ぐことの勉強だ。

 

私は、お金を1円でも「ムダ」に使うと私の金運が落ちると思っている。

お仕事でのお金儲けは結果であって、その過程を重視しないと事業はうまくいかない。

 

あたり前の話をざっとした後で、借りにきたお金分を稼ぐ「働く場」は紹介はできる旨を伝えると、首を振って残念そうに帰っていった。

こういう輩には私がアラブの石油王だったとしてもお金を貸すことはないだろう。

 

☆ ☆ ☆

 

知人には、今後あのような遊び人に私を紹介しないようにと、きっと伝わらないなと思いながらそれとなく強めに伝える。

その一か月後ぐらいにその知人から明るい声で再度連絡がある。

 

「どんな感染症にも効く水を開発した先生がいるから会ってみるといいわ」

と無条件に興奮している。紹介するけど、その際は偉い先生だから時間や対応は気をつけねてと添えられた。

 

まずなんの先生なのだ。

なんで先生なのだ。

素直なんだか何も考えていないのか。

 

とにかく、時間や対応は気をつけてって、お前は親なのか。

 

「どんな感染症にも」って「人にもよります」、「個人の感想です」みたいな言い逃れのキャプションなしでいいのかと思ったり、「これから変異していくウイルスにその水はどう対応するのか」といった質問を彼女にしたところで「まあ、それは先生に聞いてよ」と言われるのは予想できるから口にしない。

 

偉い先生なら偉い先生のところに行って、偉い先生同士で話したほうが話は進むと思うし、私は役不足なのでご遠慮したいと強くお願いする。

それでも、しつこいので「お客さまがみえたので」と言って、強引に電話を切る。

 

この連鎖は私の普段の行いがよくないのだろうと思いなおしてみる。

心当たりが山積みでうろたえる。

トリアージと相当の努力が要るようだ。

 

ついでに彼女の交友関係を心配するが、明るく平和に生きているようで、振り返りもトリアージも必要としない性格だからまあいいかと思いなおすことにした。