i-class collection

ばーばと南 + Run&Music

今の日本は泥の中に長靴で入って抜けなくなった感じなの ~ 小学3年生の話

みんなの怒りを、混乱と不安と絶望でふたをするよ。

この人インチキやってるから。

まあ、大人はみんなインチキだけどね。

 

 

先日、私の友人の家に小学校3年生になったばかりの彼女の孫が遊びに来ていたときのことです。

一緒に昼食を食べていると、TVのニュースを見ながら、厳しい顔でとつぜんそう言い出したそうです。

 

 

友人としては「ふたをする」の意味がわからないし、「混乱と不安と絶望」みたいな難しい言葉を3つもどこでどうやって覚えたのだろうと不思議に思ったそうです。

 

 

 

なによりも彼女が驚いたのは、普段は政治のことなんか何も話さない孫が、政治のことを語りだしたことです。

「どういうこと?」とたずねても

「そういうことよ」としか答えてくれないそうです。

 

 

「そういうことじゃ、わからないわ」と重ねてたずねると、

 

 

「今の日本は、この人たちのせいで泥の中に長靴で入って抜けなくなった感じなの」

と抽象的な答えを返したそうです。

 

その後は孫に何を聞いても「そのうちわかるわよ」と気になることを言ったきり、そのことには触れなくなりました。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

「ねえ、おとうさんとおかあさんもインチキなの?」

孫の帰り際におそるおそる聞いてみると

「ううん。インチキではないよ。でもわかってないかも」

「何を?」

「み・ら・い」

「未来はだれにもわからないものなのよ」

「そうなの。わかってる。でも想像して準備はしておいたほうがいいと思うの」

「何を準備するの?」と問いかけようとした矢先

「じゃあね、またくるね。ごちそうさま」

と小学3年生はちょこんと頭を下げてお礼をきちんと言ったあと、スキップをしながら元気に帰って行ったそうです。

 

 

お友だちは、言いたいことはなんとなくわかるけれども、日本や政治家についての確信めいた物言いと、言葉の使いかたに衝撃を覚えつつも、その内容があまりに抽象的すぎてどう捉えていいのか分らずに、彼女が忘れていったクマのぬいぐるみを抱き上げて、何だったんだろうねとたずねてみたそうです。

 

 

「クマは何か言ったの?」とたずねると

「言わないからここに来たんでしょ」とお友だちはおどけた後でまじめにこう続けます。

「クマは孫としか話せないらしいの」

「すごいね。クマのぬいぐるみと話せるんだ。黒ネコと話せる魔女の宅急便のキキみたい」

 

彼女は私がちゃかしたので、信用していないなと思ったのか

「クマとしゃべれるかどうかはまあ置いといて、その後ふと『大人はみんなインチキ』という孫のフレーズを思い出して、学校で何かあって心がゆがんでしまったのかしら、と思ったら、さらに心配に心配になったの。両親に伝える前に誰かに話さなきゃ、と思いながらあなたのところへ来たのよ」

と好天気に恵まれた、春先の午後の訪問理由を彼女が話してくれた。

 

 

「大人はみんなインチキって、核心をつかれたわね」と私。

「それはそうかもしれないけれど、疑わしい子に育ってしまったんじゃないかって」

と彼女は顔をしかめます。

 

「子どもはすぐに”みんな”って言うでしょ。誰もかれもを疑っているわけではないと思うわよ」

「そうだといいけど」

彼女の孫への心配は尽きないようです。

 

 

「次に、遊びに来た時にもう一回聞いてみる」と言うので、

「しゃべりたければいいけど、嫌がるのをあまり詮索しないほうがいいんじゃない」「でも、中身を知りたいのよね。私も興味あるわ」

と同調してみる。

 

 

「低学年の子供がよく話す夢のような話ではなく、大人びた緊張感のある孫の話し方は

ハッとさせらるものがあったのよ。顔つきも全然違うし」

「信じてあげた方がいいわよ。子どもの方が私たちより感性が強いから」

グレタ・トゥーンベリみたいにならないかしら

「それはわからないけど、なったらなったで応援してあげましょう。でも、どこまでその感覚が続くかもわからないでしょ」

 

 

子どもたちは、大人と違ってとても素直でピュアなので、私たちの知らない何かを察する能力があるのだと信じたいものです。

高精度のアンテナを保持していて、大人になるにつけてそのアンテナは世間のホコリがついて感度が鈍っていくのでしょう。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

孫の家に届けるために持ってきた大きな紙袋に入ったクマのぬいぐるみを忘れて帰ったお友だちに電話すると、

「歩いて戻るにはもうだいぶ来たので明日取りに行くわ。なにかが足りないなーと思いながら歩いていたのよね」と軽い返事。

 

 

なにかがじゃないでしょう。

こんなに大きな袋を忘れるなんて。

と言いかけて気づく。

 

車じゃないんだ。

 

大きなブティックの紙袋を肩にかけて2kmほど歩いてきた彼女は、その後にまた1kmほど歩いて孫の家まで行くつもりだったのだ。

 

ちょっとしたことで車を使う私は、彼女の選択を見習うことにする。

できるかな?。と私の中の悪魔がささやく。

 

 

旅を続けて家に戻れないクマに

「困ったばーばだね」と話かけると「でしょ」と笑いかけてきた。

 

 

それはウソで、そんなことがあるはずもなく、何も言わないクマのぬいぐるみに

「私も心の中にクマがいるのよ。悪魔というクマが。だから大人はインチキっていわれるの」

とそっと告白してみた。

 

 

クマはきっと優しいのだろう。

「そうだね」とは言わずに黙っていた。