南が小学2年生の時のお話。
Bad Companyのセカンド・アルバム、「Straight Shooter」を久しぶりに聞きながら、夕食のお味噌汁の準備をしている横に南がきて、キングギドラのおもちゃがほしいとせがみます。
南が何かを欲しがるのは珍しく、加えて最近はゴミ捨てやお手伝いをしてくれていることを思い出し、安いのならいいけどと軽く返事をしました。
すると、孫は「うん、安いよ。4か5だった」
と言うので、400円から500円のソフビのやつだと勝手に思って、
「それならいーんじゃない」と答えたところが
何と5万円ですって。
魚を煮つけている火をつけたまま、お味噌汁の食材を刻んだりして、あたふたしているところに驚愕の情報です。
その後の夕食の手順が一気に飛んでしまいました。
もうびっくり。
ありえん!!
おとーさんに円の貨幣価値と、うちは日銀ではないことをきっちり教えてもらうように言い渡しておきます。
無敵のキングギドラも貨幣の前では、カブトムシの蛹のように無力です。
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そんなキングギドラですが、彼は誕生以来ずっと悪役を張っています。
よくあるヒールのように正義に言いくるめられて寝返ることはしません。
フリーザのように、正義の味方になんて一生なってはいけないのです。
ギドラはこの世のヒールのナンバー1です。
だれよりも圧倒的に悪でなければなりません。
用がなくても地球で暴れてもらわなければなりません。
それゆえ、ゴジラの価値はキングギドラの登場で何倍にもひきあげられました。
野党あっての自民党みたいなものです。
今の野党はキングギドラほどたくましくはないのですが。
もしくは、平家あっての源氏。
でもね、彼を操る親分の宇宙人はそれなりにチープで、
来ている宇宙服はいかにもなイタいデザインでいただけません。
ネーミングもX星人ですから………。
なんでなの、ありえないでしょ!!。
なんとかしてほしいものです。
もう子供はいらないから、“とめ子”、と名付けたか親のような投げやりさです。
ネーミング会議をもう少し頑張れなかったのでしょうか。
でも、そんな彼らにもいいところがあるんですよ。
それは、ゴジラをあと少しまで追い詰めながらも、毎回詰めの甘さで敗退していくキングギドラのことを決して悪く言わないところです。
そしてくよくよせず、反省もせずに、次また頑張ろうと無邪気に前向きなところが好感を持てます。
ヒールの仕事は主役をいかに引き立たせるかが最優先事項です。
キングギドラは常に相手を絶望の一歩手前まで追い込んで闘います。
それはそれは見事な手管で。
シンプルで洗練された動きで。
一切の反撃も寄せつけず。
その役割を全うして余りある功績は、自分のポジションがわからなくなっている不祥事続きの一部上場企業の役員さんたちのお手本になるものです。
キングギドラが、
「こうやってゴジラを引き立てた!!」みたいな本を書くとベストセラーでしょうね。
その道の権威ですもの。
キングギドラはデザイン部門でもトップクラスです。
3つの首、2つの尻尾、うろこでおおわれているカラダと、パーツだけみるとしつこい造形になりがちですが、そうはならない美しさをまとっています。
全体がゴールド1色という、
くまモンにも通じるシンプルさは逆に豪華さを際立たせ完璧です。
この世で一番美しいデザインのひとつ。
ゆるキャラ開発者はこのデザインを参考にした方が良いと思います。
デザインしないこともデザインと、どなたかがお話していらっしゃいました。
子どもでなくてもうっとりしてしまいます。
5万円の価値がわかるような気がちょっとします。
いやいや、それでも買いませんからね。
価値観の相違により、キング・ギドラは一生うちに襲来することはありません。
といいながらも、実は南が辛抱たまらず自分のお小遣いで購入した、
2万円のキングギドラがうちにはいます。
大きすぎて置き場に困った南のおとーさんが、ピアノ線でリビングに釣ってくれました。
ついでにモスラも釣りました。
そんなギドラの色が気に入らないと、届いてすぐに南が金色のスプレーで塗りました。
それもこれも、お勉強と称して南一人に塗らせたことから大事件発生。
大方の予想に反して作業はお庭ではなく、なんと家の前のグレーチングの上。
新聞を引いて作業をさせたのですが、そこは2年生、排水溝のグレーチングに金色がはみ出してしまいました。
その後の行動たるや、さすが2年生、わが孫です。
南は「なんでも中途半端はいけない」という我が家の教えを忠実に守ります。
グレーチング全体をばっちりと金色にしてしまいました。
おかげで、我が家の前の溝には金色に輝くグレーチングが1枚だけ鎮座することに。
南はインスタ映えだ、夕焼けに映えるよね、神さまの宿るグレーチングとしてお賽銭箱でも置こうか、などと冗談を言ってはケラケラと笑っています。
いやいやそんな場合ではなく、
「グレーのスプレーを買ってきて元に戻さないとね」と南に言うと、
「グレーチングだからグレーなんだ、ばーばやるねー」と一切悪びれる風もありません。
そんなんじゃないし、綴りが全然ちがうわ。
とにかく、しゃれてる場合ではないのです。
行政の人が回ってきたら、ヒールは南ですといって、ためらいなく差し出すことにします。