社会人になった孫が(男の子)意表をついて、ブティック店員のようなスキの無いオシャレをしてたずねてくるようになった。
「目覚める」とはこういうことなのかと、全身有名ブランドもの。
「ファッションに目覚めたのね」とほめると、
ばーばどう?完璧?と自信満々だのだが……。
ここ最近はどうしていいか迷っているようで、
「何が似合うかわからない!!」
と言い出した。
「きれいに着こなせてるじゃない」とほめるけど、どうも納得できない様子。
店員は何着ても「似合う」って言うんだよねと不満げ。
それが店員さんのお仕事だから「似合う」って言いますよ。
レストランの店員さんが
「お待たせいたしました。〇〇でございます」
と料理をテーブルにもってくるのと同じ。
☆ ☆ ☆
完璧なものには近寄りがたい。
高校1の美人の同級生には男子は高嶺の花としてアプローチしない。
非の打ち所がないファッションとなると、そこには精神性がついてこないと品を欠くことになる。
ブランドへの依存が前面に出てしまって可愛げがないから。
ファッションはその人の解釈を表現する。
残酷なまでに。
彼はまだ幼くファッションに目覚めたばかりだから、いくらブランドで身を固めてもそれは美の儚さに絡め取られるのは、いたしかたない。
二十歳そこそこでポルシェに乗っても、車外の舌打ちは車内の歓喜には届かない。
車も服もデフォルトで着るものを選ぶように設計されている。
成長していくとは、”行きつく先のポルシェ”ではなくて年齢に応じた抜け道を知ることなのだ。
孫もそこに気づいたものの、道に迷ってしまった。
迷ったことに気づいたからいいのでは。
ファッション雑誌やブティックの店員はスキを許されない。
フォーマルだろうがカジュアルだろうが完璧でなくてはならないのだ。
ジャケットや靴やシャツをスキなく着こなして、その中の一点でも気にいってもらえれば購買につながるのだから。
いわばそれが彼らの制服なのだ。
言われるままにその制服を着て街に出るからおかしなことになる。
サラリーマンのスーツ姿もそうだ。
それこそブティック店員と見まごうばかりのイタリアのスーツを着て、チョッキをジレと呼び、バリっとオシャレをしても中身が伴わないとそれは制服の域を出ることはない。
よって、七五三のようにチグハグになるか鼻につくかで、どちらもどこかぎごちない。
全部マニュアル通りでは、みていても揺らぎがなくて楽しくない。
では、カラダを鍛えればいいのかというとそうでもない。
そうであれば、スポーツ選手はすべて普段着が似合わないといけないが、そう簡単にはいかない。
普段着がダサいとスポーツのことしか考えていないのねとか、逆にオシャレをすればするほどファッションばかり気にしすぎるから成績が出ないのよ、などといわれのない非難を浴びたりもする。
それはもっている車にも及ぶ。
選手はここはよく考えて処理をしなければならない。
高級車に乗っている2軍のピチャーが打ち込まれでもしたら、マウンドを降りる時にボロカスにその生活態度をヤジられる。
☆ ☆ ☆
昔、ヨーロッパから来た(オランダだかイタリアだか忘れた)のサッカー選手が、スーツに刺すチーフを忘れた。
チーフのないジャケットを着るぐらいなら、帰国したほうがいいというハードな発想をもつ彼は、なんとホテルの地下にある女性の下着売り場で
パンティを購入し、それを上手に丸めて胸に刺し、
何喰わぬ顔でパーティー会場に現れた。
パーティーも半ばに差し掛かったころ、私はそっと近づいて
「あなたのチーフ素敵よ」って笑顔でささやいた。
屈強な彼がバレたかと目を丸くして、みんなには内緒にねと優しい笑顔で人差し指をたてて自分の口ではなく、私の口に当てた。
なんなんでしょうね、このセンス、この振舞い。
どのような育ち方をしたら、このような発想になるのでしょうか。
生い立ちを知りたい。
「外し方」の見本。
☆ ☆ ☆
孫の今の装いは、メンズ雑誌そのもので彼のせっかくの優しさが消えている。
少し「外し方」を覚えるといいわねと諭す。
「外す」ってことがわからないようで、服に夢中なかわいいお孫ちゃんはポカンとしている。
周囲に、頭の中を占めている割合の一番手がファッションと思わせてはいけなくて、でも最下位ではないみたいな格好を目指すと「外す」ってことがわかるわよと話した。
余計にわからんって。
さりげないファッションとよくいうけどそれはそれは、因数分解や国同士の外交同様に難しいもので……。
ばーばには説明できません!!。
でもいいのだ。
いろんな格好をしてみれば。
興味を持ったのだから。
一度全身をブランドだらけにしてみるのも今のうち。
人生で一番失敗する確率が多いのはファッションなのだから。
完璧を求めるのはあきらめましょう。
☆ ☆ ☆
ちなみに私は身に着けているものや着ている服のブランドを指して、「いいものをお持ちで」とほめられるよりも、「そのブランドはどこですか?」ってきかれるほうが嬉しく感じる。
前と後ではおしゃれの主体がちがうので。