最近の南が私に歴史の話を持ち出すときは、顔の半分を失くしてばいきんまんに追いつめられるアンパンマン並みの危険にさらされる。
当然だが、中学に入ってからは話す内容が年齢に比例してより詳細になってきた。
彼は昔よくクラスで交わされた「昨日のTVみた?」「見た見た」「おもしろかったよねー」みたいなノリの会話を私に求めているのだろうが、その内容たるや昨日のTVのレベルではない。
南の「ばーば、知ってる?」という言葉に
私はハブに遭遇したマングースのように身構え、富士川の平維盛と同様にささいな質問におびえてしまう。
知らないことは知らないと正直に言うと、「そうかー、ばーばも知らないかー」と言って彼はがっかりする。
私も「がーん!!」となる。
この古くて汎用的な表現を書いてしまったことにも「がーん!!」となる。
漫画の得意な人は、この状況を絵に表すことで、ショックの度合いがよりよく伝わると思うが、当の私にはとにかく「がーん!!」が最適なのだ。
孫との知識の落差はいかんともしがたく、なんにしろ私の寿命は確実に縮む。
彼をがっかりさせないためにも、できるだけ「知らない」という言葉を発しないように、繊細な注意が必要となる。
つい最近は「源頼朝の次男の実朝ってビビりだったんだよね」といきなり話しかけてきた。
私は「実朝ってだれ?何?」と思うのだけれど「知らない」とは言えずに、「そうなの」、「そうなんだー」、「よくしってるね」とお茶を濁して南にしゃべらせるようにしている。
孫との会話の継続は、何よりも重要なのだから。
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ちなみに南は、小学校の時に小学館のまんが「日本の歴史」を読んで歴史への興味を培ったようだ。
小学校6年生に入ってからは、より詳しい石ノ森章太郎のシリーズを読んで、着々と知識を深めていた。
加えてYouTubeからも情報を取り入れている。
日本の歴史について大筋はつかんだので、中学に入った今は興味のある事柄に、よりスポットを当てた本を選んで読んでいるようだ。最近は最澄と空海に興味を持っている。
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「最澄の弟子たちにって、たくさんいるんだけど、ばーば知ってる?」と聞かれる。
知らないと言わないために、
と思い出す限りの記憶をたどりながら時間を稼ぐ。
最澄の教えを超簡単にした弟子たちで、親鸞みたいに念仏は1回だけ唱えればいいだの、栄西は座るだけでいいとか、一遍なんかは踊っておけばいいみたいなことで、師匠の教えをポップに解釈して結構みんな適当なんだよ。と南が教えてくれた。
話についていけるように、少し深く歴史の勉強もしなくてはと、私もYouTubeを開いてみる。いろんな素材が並んでいて問題なく情報が採れる。
生活での困りごとはネットの世界に入るのが一番手っ取り早い。
中学、高校の勉強内容にしても、基礎編から応用まで全ての教科においてかゆいところに手が届いていることに驚く。
難関高校の受験問題や大学の講座も無料で聴けたりする。
もちろんお金を払えば、大学が配信している好きな講座だけ勉強することもできる。
これなら、学校に行かなくても知識だけは十分学べる。
たくさんある様々なコンテンツをしばし眺めてみる。
知的好奇心をくすぐられ、わくわくしてくる。
そして、誰もかれもみなさん教えるのが本当に上手い。
動画に出る才能のある人って、TV以外にもたくさん存在している。
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数年前にTVの広告宣伝費がネットに抜かれたのも至極当然と納得できる。
ちなみに、2022年、日本の広告費総額は7兆1,021億。
主な内訳は
・ネット広告 3兆912億
・TV、新聞、ラジオ、雑誌 2兆3985億
となっている。
ネットは年齢に関係なく「好きなものを、好きなときに、好きな場所で、好きなだけ」をすべて解決してくれる。
旧媒体とYouTubeやabemaTVなどのネット動画を比較して見ていると、今後もこの差はどんどん開くばかりだろう。
足りないのは私の勉強しようという気力だけ?。
その前に近々、南のおとーさんに頼んで「ばーば、知ってる」を禁止用語にしようと思う。