南が小学校3年生のときのこと。
南が小学校1年生の4月に近くの川からすくってきたカワムツが、水槽の底におなかをつけてじっと動きません。
エサを入れると、その時ばかりは勢いよく水面まであがって来るのですが、ある程度おなかが落ち着くと、また底にへばりついて動かなくなります。
家族でたいへん心配をしていました。
いったいどうしたのだろうと、孫たちがいろいろと調べるもよくわかりません。
老化かな?、とみんなで話して薬を入れたりしての延命はしませんでした。
カワムツの状態は良くも悪くもならず、一週間もたったころです。
これもまた近くの川からウチにきて3年で25センチほどに成長したフナが、カワムツのカラダを支えるように寄り添っているのです。
最初の頃は弱ったカワムツになにか意地悪をしているのではないかと疑っていました。フナがなにかしでかしたらすぐに追い払えるようにと、夕飯後は南が見張る係になりました。
ところがフナは、意地悪をするどころかカワムツがバランスを崩して横に倒れようとすると、反対側へまわってカワムツの身体を支えるような動きをします。
カワムツをフナが?
いやいや、魚同士で気に掛けるなんて。
ましてやフナとカワムツです。
そんな家族の疑惑をよそに、フナは靴の裏に就いたガムのようにカワムツの横からなかなか離れようとはしません。
どうみてもフナの行動は弱ったカワムツを気遣っているようにしかみえないのです。
試しにエサを投入すると2匹ともが他の川魚に混ざり水面に上がってきますが、一通り落ち着くとフナはまた水槽の底で動かないカワムツの横に寄り添います。
日ごとにカワムツはバランスを大きく失うようになり、6日もたったころ、カワムツはフナに看取られて息を引き取りました。
「カワムツが死んじゃってる。でもフナがカワムツの周りを泳いで離れない」
南が気づいて家族に知らせにきます。
おなかを上にして水面に浮いてきたカワムツの周りをフナが弔うように泳いでいます。
「フナ、えらかったね。ごほうびにみんなを川に戻してあげよう」
南が提案します。
「いなくなっちゃうけどいいの?」
おかーさんがたずねます。
「いいよ。みんな自由にしてあげよう」
後日、おとーさんとおかーさんと私と南の4人で魚たちが元住んでいた川へ放流に行きました。
4つのバケツから勢いよく放流すると、しばらく手前をぐるぐると泳いでいた23匹の川魚たちはフナを先頭に、列をなして光で反射して見えにくい深みを目指して泳いでいきました。
「やっぱりフナがボスだったんだね。優しかったもんね」
魚の様子を目を細めて追っていた南が、すがすがしい笑顔でそう言いました。
「次はメダカだね!!」家に戻るとすぐに切り替えた南に
「メダカ飼うのはいいけど、お世話してよね」
とキッチンに入っているおかーさんから、動物飼育の際のポピュラーな注意を受けていました。
「やってたじゃん」
「うそばっかり、言われないとしなかったじゃん」
「エサはやってたよ」
「水槽の掃除は?」
「それはおとーさんじゃん」
「自分たちでしっかり管理してね。おかーさんは手伝いませんよ」
これまたポピュラーなやり取りを経て、4年。
最初は川から採ってきた野生種に加え、メダカすくいで採ってきた種を合わせて30数匹からはじまりました。
毎年春になると次々に生まれてくる針子を、たくさんのおともだちに配ったにもかかわらず、4年たった今、庭の周囲に置かれたたくさんの水槽やコンテナには、まだ600匹以上のメダカが泳いでいます。
メダカを川に放すことは禁止されています。
今年は大口の寄付先を考えるように、南はおとーさんからミッションを言い渡されて悩んでいるところです。