今大会の日本のチームのハイライトは、グループステージ2戦目のイラク戦でしょう。
イラクはただのロングボール戦略で運よく日本に勝利したわけではありません。
ロングボールを次々と日本の急所に的確に落とすスキル、少ないチャンスでゴールをモノにする精神力、攻守においてカラダの大きさを有利に使う器用さ、タスクを90分間やり通す集中力と、どれをとっても素晴らしいものでした。
後述しますが、アナリスト上がりの戦術家の監督が練りに練った策に見事にはまった日本は、イラクの狙い通りに混乱します。
90分間がロスタイムであるかのような戦い方を徹底して、文字通り日本を蹴散らしました。
日本に勝ったイラン、イラクに加え、
大会前の練習試合で、日本に1-6と敗れながらも「そんなの関係ねー」とばかりに見事に決勝に進んだモロッコのフセイン監督が率いるヨルダンの中東勢が、サッカーとは
FIFAランキングもトレーニングマッチの結果も関係なく、本番でゴールにボールをけり込んだ方が勝ちなんだよ
とわたしたちに教えてくれました。
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<まともに受けてしまったのか>
挑戦者が
挑戦を受ける立場になったときの戦い方の難しさは
その立場になったものでないとわかりません。
横綱は立ち合いに変化をしたり、見苦しい勝ち方をしてはなりません。
相手を受けとめて堂々とした勝ちを求められるます。
日本はアジアのチームに対して、その横綱相撲を展開した結果、毎試合失点を重ねて敗退してしまいました。
まだ何も成し遂げてはいないのに、練習試合の数値のみで日本全体がアジアでは横綱レベルと勘違いしていました。
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<全試合で失点>
ベスト8にあがったチームの中で、予選の3ゲームにおいて全試合で失点したのは日本と韓国、東アジアの2チームのみ。
ベスト8までの失点総数ランキングは日本と韓国の8失点が最高で、3位はヨルダンの5失点。
ちなみにこの3チームはベスト8までの得点もトップ3です。
日本が12得点、韓国が11得点。ベスト16からエンジンがかかり、初優勝を目指すヨルダンが10点。
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<アジアの進歩をみずに、横綱相撲を求めたメディア>
では、前回のW杯同様に、モハメド・アリのキンシャサの奇跡のように、徹底的に自陣に引き、カウンターに徹した戦略を展開して僅差で勝ち進んだところで、誰が評価したでしょうか。
闘志を前面に出してカラダを投げ出しながら戦いながら、相手のスキを見て一刺しする試合運びが日本の戦術だったのですが、それは横綱の戦い方ではありません。
アジアの格下相手にそんな戦い方では進歩がないではないか!!
と叩かれたことでしょう。
しかし、アジアの各代表の戦術を遂行するそのスキルたるや、初戦のタイのチームをみてわかるように、過去の大会と比べて格段の進歩がありました。
監督やコーチ陣に指導力に加えた分析力は世界のレベルと比較してもひけをとらなく
なっており、各国が今まで以上のスピードでチームを進化させていることに力を注いでいることがよくわかった大会でした。
戦前の試合予想をみると、だれもが予選は4点以上取って勝てると楽観していました。
サッカーで4点差なんてスコアは10%未満であることを知っているのであれば、そのような予想はしなかったでしょう。
前回のAFCアジアカップで4点差以上ついたゲームをみてみると5試合のみです。
そのうちの2試合は今回参加していない北朝鮮のスコアです。
それが、今大会は準決勝までで2試合のみ。
ゲームの点差でみると、
0点~2点差で決着したゲームは前回は80%。
今大会は88%にのぼります。
どの国も育成と代表の強化が実り、国同士の差は小さくなってきています。
4点とって勝つなんてことがいかに困難なことか。
この数字をみるまでもなく、サッカーをやったことがある人は想像に難くないと思うのです。
それくらい日本サッカーを取り巻く環境は、お花畑状態にありました。
このように見てくるとアジアカップとはいえ、そう簡単に勝てる大会ではありません。
それなのに、空気は完全に浮かれて、どれだけぶっちぎって優勝するかを期待されていました。
経営でもなんでも、上手くいっているときが一番足もとをすくわれやすいものです。
サッカー日本代表は、まさにその真っただ中に立ってアジアカップに臨みました。
謙虚さと敬意と風格と力強さと美しさと技術を兼ね備えるのが横綱であり、トップオブアスリートのありかたとすれば、サッカー日本代表はまだまだ挑戦者だったのです。
このセオリーを忘れて囃し立ててしまった私たちは大いに反省して、代表チームを健全にサポートする姿勢を考えなければならないでしょう。
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<スペインの逆襲>
日本の弱点を見事についたイラクの監督ヘスス・カサスはルイス・エンリケ率いるバルセロナでアナリストをしていました。
その後、クラブチームやユース代表からスペイン代表に至る、幅広い層での監督やコーチ経験を十分にこなしたあと2022年にイラク代表に就任しました。
イラク代表では昨年1月、中東の国がこぞって集まるガルフカップを無敗で優勝し、その勢いをかって9月のタイで行われたキングスカップでも優勝をして2冠を達成しています。
どちらが王者でしょうか。
さらにイラク代表を歴史が後押しします。
ヘススにとっては、日本が2022年W杯のスペイン代表を2-1で退けた雪辱を晴らす代理戦争でもありました。
それに加え悪いことに、なでしこジャパンも昨年のW杯グループリーグでスペインをそれこそ4対0で完膚なきまでに叩きのめしているのです。
「アナリスト経験のあるたたきあげで熟練の雪辱にかられる監督」
が相手なんていちばんタチの悪い構図です。
映画の前半にさんざんやられて、復活したゴジラみたいなものです。
イラクに比べて何も成し遂げていない日本は、FIFAランキング63位のイラクよりはるか上の17位に位置します。
日本チームはイラク戦において何を想定してどのような戦術を展開しようとしていたのか、ゲームが始まってからは想定と何が食い違っていて、ハーフタイムにどのような修正プランをもって戦ったのかに興味があります。
また、今後の大柄なチームのロングボール対策についてもどのような対応をしていくのか。「対抗して大柄な選手をそろえます!!」では、解決策にならないことは言うまでもないでしょう。
そんなイラクは、前回W杯予選での日本の戦い方同様の道をたどります。
日本戦に異常に集中した結果、その後はパフォ―マンスを落とし、トルシエが率いるどうみても守備に穴のあるベトナムに3-2と苦戦を強いられ、ベスト16でヨルダンに2-3で敗れて大会を終えます。
それほどまでのチームであることは間違いない日本は、プライドを捨てて頭をつけてでも勝つ横綱の意地に学ぶところがあるでしょう。
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<残念なオーストラリアがいちばん危険>
今後、アジアで不気味なのは2連覇を狙うまでになったカタールや決勝まで進んだヨルダンもですが、日本ではだれも話題にしないまま5大会連続でベスト8入りして消えていったオーストラリアです。
今大会中、いちばん残念な負け方をしました。
オーストラリア代表は準決勝の韓国戦までの4試合を、8得点1失点と折り紙の端を折るように、きっちりと隙なく勝ち上がってきました。
そのゲームでも自陣深く引いた守備を集中して機能させ、1-0で韓国をリードしベスト4は目の前でした。
アディショナルタイムでPKを献上するまでは。
当然のように息を吹き返す韓国、お決まりように集中力が切れたオーストラリアという構図で延長は進みます。
最後はフリーキックを決められオーストラリアは1-2で韓国に惜敗しました。
韓国はオーストラリア・ディフェンスを崩せないままに、PKとフリーキックでベスト4を勝ちとりました。
かたや、オーストラリアの攻撃陣。
それだけはずせばそりゃあ負けるわな、というシュート精度のゆるさが散見されました。
ペナルティエリア内、それもゴール前でのシュートを外しすぎです。
中学生のサッカー部でも外すことのないような、キーパーのセーブしたこぼれ球をあらぬ方向へシュートして外し、その後アシカですら決めるだろうという決定的なヘディングシュートをまたも外した、コナー。
ゴール目の前にしながら、ハーフボレーを打ち上げたデューク。
このような決定的いや決定すべき瞬間が4本ありました。
誰か一人でも決めていれば楽勝だったのです。
昔の日本を見ているようでした。勝ちきれないのです。
この「ドーハの悲劇」をオーストラリアが利用して反省し、メンタル面からチームを強化したときは、もともとポテンシャルがあるチームなので相当に手強い相手になると思います。
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<日本は>
W杯にむけて新たな課題がでてきてよかったのでしょう。
この問題を解決できれば、また進化した日本チームが見ることができますし、できなければW杯も期待できないでしょう。
あしたの決勝も楽しみです。