「ただいまー」
「おかえりー」
その後、玄関が「しーーーーーーーーーーーーーーーーーーん」としています。
「みー、なー、みーっ!!!」
そーっと玄関を見に行ったおかーさんの声にからめとられる南。
発見時の南は、注文していた修学旅行の写真を、玄関でうつぶせになりながら見入っている。
そのままの態勢を崩さずに、ランドセルの底でくしゃくしゃになった6年生通信と、いつの日のものなのか、もっとぐしゃぐしゃになった95点の社会のテストを右手にひらひらさせながら、ニコニコしておかーさんを見上げている。
あした、地球が滅びるとしても
あした、円が150円になったとしても
あした、給食にあなたの嫌いなナスビが出るけれども
学校から帰ったらまずは、シャワーを浴びなさい!!
そして、テストはきれいに持って帰りなさい!!
って、
何回言えばいいのですか。
束の間の自由を謳歌していた南は、おかーさんの注意を受けて
「ナスビはいやだなー」と身をよじる。
「いま大事なのは、ナスビの話ではありません!!」
不用意な発言を軽く返す南を、腰に手を当てて見下ろすおかーさん。
やっと危機を察知した南は、汗と砂とホコリで子犬のような匂いを漂わせ、
「ハイッ!!、わかりました!!」
と大きな声で返事をしてシャワーへ急ぐ。
きっと何もわかってない、と思います。